最新記事

戦争報道

それでもフリーランス記者は紛争地へ向かう

アメリカ人ジャーナリスト惨殺で浮かび上がる戦地報道をめぐるいびつな業界構造

2014年9月3日(水)17時24分
クリストファー・ザラ

抗議 先月ISISに殺されたフリー記者、フォーリーの写真を掲げる男性(ニューヨーク) Carlo Allegri-Reuters

 約2年前にシリアで誘拐されたアメリカ人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリーがスンニ派テロ組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国、別名ISIL)によって斬首処刑された動画が先週公開された。この衝撃を受け、世界の報道機関は紛争地帯の取材にさらに腰が引けるかもしれない。

「既に現実になっている」と、NPOのジャーナリスト保護委員会(CPJ)のシェリフ・マンスールは言う。「多くのメディアが、シリアの取材を避けている。特派員を一切雇わないと決めたところもあるようだ」

 CPJのデータによれば、シリアはジャーナリストにとって世界で最も危険な場所だ。反政府運動が11年に始まって以降、少なくとも69人のジャーナリストが殺害された。80人以上が誘拐され、そのうち65人は昨年の被害者だ。

 こうしたジャーナリストを狙い撃ちにした事件のせいで報道機関は萎縮してしまっていると、米紙クリスチャン・サイエンス・モニターなどで中東情勢を伝えるトム・A・ピーターは懸念を示す。誘拐や殺害事件が増加して以降、ピーターを含む多くのジャーナリストがシリアから引き揚げた。報道機関も以前ほど現地取材しないようになっているという。

 ジャーナリストは当然、紛争地帯に入ることのリスクを承知している。だが問題は、財務状況が年々厳しくなっている報道機関が、紛争地を取材するための予算の捻出に苦慮していることだ。それでも報じるべきニュースを伝えるために、報道機関、政府、そしてジャーナリストたち自身も協力して、戦地へ向かう記者が適切な安全対策の訓練を受けられる環境を整えるべきだと、ピーターは訴える。

 紛争地でも特に危険な地域での現場報道の多くは、資金面での後ろ盾を持たないフリーの記者によるものだ。CPJによれば、92年以降に世界で殺害されたジャーナリストのうちフリーランスは17%だった。しかしシリアではその比率が約50%に跳ね上がる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中