最新記事

中東

イスラエルがこだわる「報復の原則」が生む悲劇

少年3人が殺害された事件で証拠もないままパレスチナ自治区を空爆したネタニヤフ政権の非道

2014年7月16日(水)14時50分
ウィリアム・サレタン(スレート誌コラムニスト)

過剰反応 イスラエルの少年殺害の報復は空爆? Ibraheem Abu Mustafa-Reuter

 イスラエルがまた、激しい怒りにまかせて悪しき慣習を繰り返している。
 先週、6月中旬から行方不明になっていたイスラエル人少年3人の遺体がパレスチナ自治区で発見された。これをパレスチナ人による犯行だと捉えたイスラエル市民は首都エルサレムでデモを行い、「アラブ人に死を」と叫びながら報復を訴えた。

 その翌日、少年がまた1人、誘拐され殺された。今度はパレスチナ人の少年だった。誰の仕業かはまだ分からない。だが確かなことは1つ。この犯行の根底にあるのは、ひと握りの人間が犯した罪でも報復として大勢の人間を罰しようとするイスラエルの思考だ。これはテロリズムの考え方にも似ている。

 ユダヤ教もイスラム教やキリスト教と同じく、罪のない人々を故意または無差別に傷つけることを禁じている。なのに長年周辺国からのテロの脅威にさらされてきたイスラエルは、その苦い経験から「報復の原則」を編み出した。やられたら、敵が二度と攻撃しようと思わなくなるまでやり返す──。

 この原則にのっとり、イスラエルはパレスチナのイスラム過激派組織ハマスへの報復を繰り返してきた。犯人が特定されていなくても関係ない。容疑者になった時点で、その怪しいパレスチナ人の家を破壊する。そこに年老いた両親や幼い子供が住んでいても空爆するのだ。

 重要なのは敵の「攻撃意欲を奪う」ことだと、ネタニヤフ首相は主張している。子供のいる家庭を破壊する行為を政府が正当化しだしたら、歯止めが利かなくなる。現にアラブ人と見れば無差別に放火や破壊行為に及ぶ、ユダヤ人入植者の報復攻撃はエスカレートする一方だ。

アッバスにも罪を着せる

 今回、イスラエル人少年3人が誘拐された事件については、ハマスは犯行声明も出していないし、関与も否定している。にもかかわらず、ネタニヤフは事件発生直後からハマスを非難。2週間後には容疑者2人の名前を挙げ、うち1人はハマスの戦闘員だと主張したが、何の証拠も示さなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米NEC委員長「利下げの余地十分」、次期FRB議長

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、5万1000円回復 TO

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止法施行、世界初 首相「誇

ワールド

ウクライナ和平には欧州が中心的関与を、ローマ教皇 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中