最新記事

タイ選挙

タイ首相のクビを切った司法クーデターの行方

インラック首相突然の失職で分かった軍部や裁判所、王政派など本物の実力者たち

2014年5月20日(火)15時53分
パトリック・ウィン

戻る場所はない 判決は不当だと訴え支持者に手を振るインラック Borja Sanchez-Trillo/Getty Images

 この数カ月、あの手この手で自分を首相の座から引きずり降ろそうとする勢力をかわしてきたタイのインラック首相だが、ついに屈することになった。46歳の温厚な彼女は、もう首相ではない。先週、憲法裁判所により「倫理を欠いた」行為があったとして違憲判決を言い渡され失職した。

 インラックの倫理違反自体は極めて地味なものだ。3年前、インラックは国家警察本部長官を国家安全保障会議事務局長に起用し、警察本部長官の後任にはインラックの親族を就任させた。憲法裁判所は、これを縁故主義による不正な人事であるとし、選挙で選ばれた首相失職の正当な理由になり得るという判断を下した。

 インラック陣営は、この裁判は司法クーデター以外の何物でもないと反論している。

 今のタイでは、選挙で選ばれた首相や政党そのものを裁判所があっけないほど容易に追放し解散を命じられる。32年の立憲制定以降、82年間に18回ものクーデターを実行した悪名高いタイの軍部が最後にクーデターを起こしたのは06年。その軍が統治下で憲法を改正し、微罪でも裁判所が政治家を追放できるようにした。

 軍と蜜月関係にある裁判所は、この権力を積極的に行使し、これで3人の首相が裁判で失職に追い込まれた。そのうちの1人で、テレビ番組でタイ料理を作りながら政治についてぼやいたサマックは、報酬を伴うテレビ出演が憲法で禁じられた「首相の兼業」に当たると見なされ、その座を追われた。

狙われるタクシン派首相

 失職した首相には共通点がある。皆、タクシン元首相に忠実だったことだ。タクシンはインラックの実兄で、地方の労働者階級や農村の支援を受ける政治的なネットワークで影響力を持っている。このネットワークは00年代以降、すべての主要な選挙で支援する候補者を勝利に導き、タイを支配してきた王室や軍などの守旧派に揺さぶりをかけてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英CPI、10月3.6%に鈍化 12月利下げ観測

ビジネス

インドネシア中銀、2会合連続金利据え置き ルピア安

ワールド

政府・日銀、高い緊張感もち「市場注視」 丁寧な対話

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中