最新記事

ロシア

クリミア併合に猛進した「激情家」プーチン

KGB出身の冷徹なイメージは実像と違う感情的な一面が介入を決断させた

2014年4月3日(木)17時00分
リンリー・ブラウニング

葛藤 計算づくの冷徹な男と思われがちなプーチンだが Christian Charisius-Reuters

 ウクライナの親ロシア政権崩壊後、ロシアのプーチン大統領は欧米の警告を無視して南部のクリミア半島に軍隊を派遣。先週ついにロシアへの編入を公式に宣言した。冷戦時代に歴史を逆戻りさせかねないプーチンの野心を、欧米諸国は一斉に非難。ケリー米国務長官は「ロシアはさらなる侵攻のための口実づくりに躍起になっている」と、警戒感を示した。

 しかしウクライナ情勢に詳しい米政府関係者や学者に言わせると、プーチンはクリミア併合を虎視眈々と狙っていたわけではない。むしろウクライナのヤヌコビッチ大統領の突然の失脚という想定外の事態に直面し、介入に踏み切ったというのだ。

 プーチンはただ驚き、怒り、パニックに陥った。市民の不満がヤヌコビッチ政権の崩壊につながったなら、ロシアでも同じことが起きかねないからだ。

「何カ月も前から準備していたのではない。衝動的な決定だ。戦略的でも戦術的でもない、感情的なものだった」と、米政府高官は匿名を条件に語る。

 プーチンとその取り巻きが恐れるのは、「ウクライナのウイルス」、つまり近隣諸国の混乱がロシアに波及する事態だ。

 大ロシア復活に執念を燃やす冷血なKGB(ソ連国家保安委員会)育ちの戦略家というプーチン像は正確さを欠く。隣国の混乱にパニックを起こし、感情的になる一面が見落とされている。プーチンにとって、いや大半のロシア人にとってウクライナはただの隣国ではない。歴史的にも精神的にもロシアの特別な地だ。

反欧米をあおり人心掌握

「プーチンにも葛藤がある」と、ニューヨーク大学のロシア専門家マーク・ガレオッティ教授は言う。「計算ずくで抜け目ない人間だが、腹の底には大ロシア主義者的な情念がたぎっている。その情念に突き動かされて軍事介入したのだ」

 欧米側はプーチンの感情的な側面をあまり理解していない。しかもここ数年、プーチン政権の重点課題は微妙に変化している。経済成長重視から、統制の取れた強大な国家ロシアの地盤固めへと軸足が移った。

 政権寄りの新興財閥を巻き込んだこの変化は、10年続いた経済成長が鈍化し始めた時期から始まった。それは反政府運動が活発化し始めた時期とも重なる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中