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ベネズエラ

チャベスの後継者はチャベスよりずっと強権的

全土に広がる反政府デモを力ずくで弾圧するのはマドゥロ大統領が前任より自信も戦略性もない証し

2014年3月6日(木)13時27分
ウィリアム・ドブソン(スレート誌政治・外交担当エディター)

戦場 反政府デモに参加していたところ、頭を銃で撃たれて運ばれる女性。後に死亡した Mauricio Centeno-Notitarde-Reuters

 2月12日に反政府派と政府派の衝突で3人の死者が出たことがきっかけで、ベネズエラ全土に広がった抗議デモの波。マドゥロ大統領が19日に突然、強硬姿勢をむき出しにすると、長年くすぶっていた人々の怒りは一気に燃え上がった。

 首都カラカスでは治安部隊と警察がデモ隊と衝突。辺りには催涙ガスが立ち込め、銃声が響いた。「コレクティボス」と呼ばれる大統領支持派の武装ギャングがバイクを連ねて乗り込み、市民に向けて銃弾を放つ。

 暴力的な弾圧は首都に限らず、マラカイボ、マラカイ、バレンシアなど、ほぼすべての主要都市で強行された。ベネズエラではここ数年、犯罪と殺人事件の発生率が急増し、都市部の治安の悪さはよく知られている。だが、この日のベネズエラはただ物騒なだけではなく、まさしく戦場と化していた。

 さらに衝撃的だったのは、政府が事前に警告も説明もしなかったことだ。マドゥロは19日の弾圧に先立ち、国民に向けて演説を行った。治安維持の必要性を説き、コレクティボスの「貢献」をたたえ、有力野党を非難する内容だ。

 抗議デモで死者が出たことで、政権側は有力野党「民衆の意志」のレオポルド・ロペス党首に逮捕状を発行。無実を主張するロペスは18日に逮捕覚悟で治安部隊の前に姿を現し、即座に拘束された。

 反政府派の旗頭ロペスを拘束しても、マドゥロの政権基盤は安泰ではないらしい。19日の演説は一貫性に欠け、自信のなさをうかがわせた。マドゥロは政権内部で求心力を失い、軍と治安部隊を掌握し切れていないという噂も広がっている。

■食料・物資不足が深刻化

 弾圧の最大の標的となっているのは「民衆の意志」だ。18日には治安部隊が党本部に捜査に入った。同党の中堅メンバーの話では、党幹部の大半は逮捕されたか潜伏中という。

 今回の弾圧にウゴ・チャベス前大統領とマドゥロの決定的な違いを見て取れる。チャベスは挑発的な発言を繰り返し、憎悪をまき散らしたが、大規模な弾圧には踏み切らなかった。しかしマドゥロにはチャベスのような自信もなければ、政治的な狡猾さもない。しかもチャベスから派閥対立が絶えない政権を引き継いだ。

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