最新記事

東欧

ウクライナはロシアの「属国」に戻るのか

EU加盟はいばらの道で足元には財政問題。ロシアの支援受け入れはこの国を救うのか、それとも内戦に火を付けるのか

2014年1月21日(火)13時08分
オーエン・マシューズ(モスクワ)

親EU派 抗議活動を行うデモ隊は材木や氷でバリケードを築き警官に抵抗 Alexander Demianchuk-Reuters

 帝国の復活費用と考えれば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の年末の買い物はかなり「お買い得」と言えなくもない。150億ドルの緊急融資や天然ガス価格の3割引き下げ(年間20億㌦相当)などと引き換えに、ウクライナの忠誠心を買い上げ、EUとの提携強化を阻止できたのだから。

「ウクライナ抜きでロシア帝国の復活はあり得ない」──91年にウクライナがソ連圏を離脱した直後、かつて米大統領補佐官を務めたズビグニュー・ブレジンスキーはそう語ったものだ。

 だからこそプーチンは、あの手この手を繰り出した。結果、ウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領はEUとの連合協定の締結を見送った。

 もちろんロシア側は大喜びだが、ウクライナの首都キエフでは抗議活動が拡大。デモ隊は一時、数十万人にまで膨れ上がり、各国の大物政治家が独立広場を訪れてデモ隊を励ました。ジョン・マケイン米上院議員も現地入りし、「自由世界は皆さんの味方だ」と呼び掛けた。

 一方、EUよりロシアを選ぶという政治的犠牲を払ったヤヌコビッチは、12月中旬のモスクワ訪問で国賓級の歓待を受けた。プーチンは「国民福祉基金」の6分の1を拠出してウクライナの国債150億㌦相当を買い入れる奮発ぶり。東部の工業地帯への経済協力も約束した。

 ウクライナのミコラ・アザロフ首相はこれを「歴史的」合意と呼び、これで財政破綻や社会の崩壊を回避できるとした。

 短期的にはアザロフは正しい。EUは時代遅れの重工業の再建はおろか、ウクライナの緊急支援にも動かない。連合協定を締結しても、EU加盟が実現するのはずっと先の話だ。

 ロシアのドミトリー・ロゴジン副首相の言葉を借りれば、連合協定はサウナの浴室に入るためではなく「更衣室前に並ぶための整理券」にすぎない。

 彼の言い分も正しい。EUは今、金融危機だけでなく、存続の危機に立たされてもいる。EUの中核国では、新たに加盟したブルガリアなどからの移民問題が深刻化しており、ウクライナのような巨大で貧しい国々のEU加盟のめどは立たない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「MSNBC」が「MS NOW」へ、コムキャスト

ビジネス

米8月住宅建設業者指数32に低下、22年12月以来

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

イスラエル、豪外交官のビザ取り消し パレスチナ国家
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中