最新記事

旧ソ連

ロシアかEUか、ウクライナの苦悩

EUの仲間には入りたいがロシアに借りを作り過ぎた苦悩

2013年12月18日(水)14時58分
ジョシュア・キーティング

相手が悪い ウクライナの内閣府前に集結したデモ隊 Vasily Fedosenko-Reuters

 11月末にウクライナ政府がEU加盟につながる連合協定の締結を見送ったことに反発して、首都キエフで激しい抗議活動が続いている。内閣不信任案は否決されたものの、政府機関を封鎖しているデモ隊が鎮まる気配はない。

 ヤヌコビッチ大統領は、方針を転換して連合協定に関する協議を再開する意向を示したが、EU側は締結の条件を変えるつもりはなさそうだ。ヤヌコビッチが提案しているようにロシアを協議に参加させることにも難色を示しており、事態の行方は見えないままだ。

 ウクライナは、ロシアの関税同盟とEUとの連携のどちらを選ぶのかを迫られている。しかしウクライナは今でもWTO(世界貿易機関)加盟や、ソ連崩壊後に再編された貿易枠組みを通じて、EU諸国ともロシア経済圏の国々とも幅広い経済関係を結んでいる。

 EUを拒否すれば国内に混乱が広がる──。それはここ数週間で明らかになっている。しかし、ウクライナの主要な貿易相手国であり、エネルギーの供給源であり、債権者であるロシアを裏切った場合のほうが、おそらくさまざまな報復が待ち受けるだろう。ウクライナにとって、好ましい選択肢は多くない。

 そもそも、ウクライナは財政危機に直面している。ガスの輸入費だけで毎月約10億ドル掛かり、来年はIMFに80億ドル以上を返済しなければならない。外貨準備高はこの2年で半分近く減り、GDPはこの1年で1.5%減少した。

 より深刻なのが長期的な人口減少だ。ウクライナは出生率が低く、死亡率はヨーロッパで最も高くて、国外に移住する人がかなり多い。人口は91年の5160万人から、2011年には4550万人と11.8%も減っている。人口の減少は実質賃金の上昇につながることもあるが、生産性を向上させていくことはかなり困難だろう。

 ウクライナ経済が、大掛かりな構造改革を緊急に要することは明らかだ。EUとの経済連携を強化する連合協定はその後押しになったかもしれない。短期的には、ロシアと歩調を合わせるほうが楽な判断だ。ヤヌコビッチにすれば、ヨーロッパを相手にした場合より人権問題をめぐる厄介な批判も少ないだろう。

 しかし今のところ、自分たちがどこに向かうべきか、ウクライナ自身が分かっていない。

© 2013, Slate

[2013年12月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中