最新記事

ヨーロッパ

「誘拐疑惑」ロマ人はなぜ今たたかれるのか

ギリシャの「ブロンドの天使」をきっかけに欧州全土でロマ排除の動きが加速している

2013年11月5日(火)14時02分
ジョシュア・キーティング

本当の親は? マリアの情報提供を求めるポスター(アテネで) John Kolesidis-Reuters

 このところヨーロッパの大衆メディアは、少数民族ロマ人の話題で持ち切りだ。

 最も大きな話題になっているのは「マリア」と呼ばれる青い目とブロンドの髪をした4歳の少女。10月中旬、ギリシャのロマ居住キャンプで警察当局に保護された。同居している「両親」の肌が浅黒かったため、実の親子ではないのではないかという疑惑が持ち上がった。

 DNA鑑定によってマリアと夫婦の間に血縁関係がないことが分かり、本当の親を探そうという動きがヨーロッパ中に広がった。この夫婦によれば「ブロンドの天使」(ヨーロッパのメディアはマリアをそう呼ぶ)は誘拐されたわけではなく、「合法とは言えない養子縁組だが、母親の了承は得ている」という。

 結局、ブルガリアに住むロマの男女が両親だと判明。しかし捜査の段階で、マリアと同居していた夫婦は複数の名前を使って、3つの都市に14人の子供がいることが明らかになった。児童養育手当を詐取しようとした疑いが持たれている。ギリシャ当局がこの5年間の出生証明書を調査したところ、これまでにトルコ沿岸のレスボス島に住む3人のロマが同様の容疑で逮捕された。

 ギリシャの事件はさらに追及が必要だろうが、同時に懸念されるのが「ロマは白人の子供をさらう」という「神話」が息を吹き返す可能性だ。ロマに対するこうした古い偏見があるところに、新聞やテレビが興味本位の報道に走れば、どういう事態になるかは簡単に想像がつく。

経済とロマ排斥の関係

 ギリシャの事件に続いてアイルランドでも、ダブリンの近くでロマと暮らしていた7歳の少女と、ウェストミース州でやはりロマの子供とされていた2歳の少年がいずれも実の親子とは疑わしいとして警察に保護された。しかしDNA鑑定の結果、どちらともロマの夫婦の実子だと確認された。

 フランスでもロマ人をめぐる論争が起きており、若者による抗議デモが全国に広がっている。問題の1つは、コソボ出身のロマの少女レオナルダ・ディブラニ(15)が警察に通学用バスから降ろされて拘束され、家族と共にコソボに強制送還された事件だ。

 オランド仏大統領は、ディブラニを両親とは別に1人だけフランスに戻してもいいのではないかと語った。だがこの発言は、移民問題でどの立場にいる人々も納得させられなかった。

 フランスでは9月にバルス内相が、ロマはフランス社会に同化しないから国外退去させるべきだと発言して物議を醸したばかり。「彼らの生活様式は私たちのものとはまったく違っており、そのために摩擦が起きている」と、バルスは語った。

 ロマに対する風当たりは、経済が下り坂になると強まる傾向がある。ハンガリーでロマ排斥を掲げる極右政党ヨッビクが躍進していることからも、それは分かる。

 今後の展開は見えにくいが、この10月はヨーロッパのロマにとって特別な時として記憶されるかもしれない。

© 2013, Slate

[2013年11月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中