最新記事

医療

アルツハイマー治療に希望が

マウス実験で、プリオン病の神経変性を止めタンパク質の生成を回復させることに成功

2013年10月25日(金)14時37分
ハナ・オズボーン

一筋の光 脳の働きが少しずつわかってきた(アルツハイマー病患者の脳) Zephyr/SPLーBrand X Pictures/Getty Images

 パーキンソン病やアルツハイマー病といった神経変性疾患の治療薬を開発する努力に、一筋の光が見えてきた。

 米サイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌の最新号によると、英医学研究評議会(MRC)が、歩行障害や認知症などを引き起こすプリオン病のマウスの神経変性を止め、タンパク質の生成を回復させることに成功した。既にこれまでの研究で、プリオン病マウスの脳細胞を死滅させる経路は特定されていた。

 生物の細胞はタンパク質を作っているが、異常な構造のタンパク質が作られると、ある種の「品質管理システム」が働いて取り除かれるようになっている。

 ところが異常な構造のタンパク質がたまり過ぎると、この品質管理システムが過剰反応する。つまり、一時停止するだけのはずのタンパク質の合成が止まったままになり、神経細胞の死につながる。

 今回研究チームは、プリオン病マウスに薬物を経口投与してこの細胞を死滅させる経路を阻害。タンパク質の合成を再開させ、神経変性を止めることに成功した。

 チームを率いた英レスター大学のジョバナ・マルーシ教授は、「プリオン病のマウスにこの薬物を投与したら症状の進行が急にストップした」と語る。「マウスは正常な動きが一部できるようになり、記憶障害も止まった。それを見てみんなとても興奮した」

 とはいえ、この薬物は膵臓にダメージを与えるため、マウスが軽い糖尿病を発症したほか、体重減の副作用がみられた。

 人間に投与できる薬を開発するまでには「長い道のりがある」と、マルーシも認める。それでも神経変性疾患に薬物治療の「現実的な可能性」が示されたことは大きい。

 英アルツハイマー病協会の広報担当者は、「プリオン病のマウスで行われた研究がアルツハイマー病の人間にどう応用できるかは不透明だ」としつつ、今回の発見は「とてつもなくエキサイティング」と語っている。

[2013年10月22日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中