最新記事

中国経済

経済弱体化で中国はますます危なくなる

高まる国内の不満をそらすために中国共産党は愛国主義をあおるだろう

2013年7月12日(金)17時01分
マーク・デウィーバー(クァントラリアン・キャピタル・マネジメント共同設立者)

危険水域 習近平(シー・チンピン)国家主席は国内の不満にどう対処するのか Tomas Bravo-Reuters

 多くのアメリカ人は、世界第2位の経済大国に躍り出た中国の成長を不安の目で眺めている。飛ぶ鳥も落とす勢いの中国に対して、アメリカは衰退気味。さほど遠くない未来に世界の覇権国家の座も中国に奪われてしまうのだろうか──。

 ところが最近、中国経済の雲行きが怪しくなってきた。今年第1四半期のGDP成長率は前年同期比で7・7%にとどまり、期待外れだった昨年第4四半期の7・9%をさらに下回った。輸出の伸びも鈍化し、これまでの投資主導の成長は維持できないことがはっきりしてきた。

 中国政府は、内需拡大と生産性向上を軸とする新しい「成長モデル」を導入して成長を維持したい考えだ。だが今のところ、効果は出ていない。そもそも今の中国の政治経済システムでは、成長モデルの転換などできるとは思えない。

 2020年までに限って言えば、「衰退する大国」になるのはアメリカではなく、中国のほうだ。ではそんな中国を見て、アメリカは安堵の息をつけるのか。残念ながらそうはいかないようだ。中国の衰退は大きな不協和音を伴う可能性が高い。

 成長の鈍化は中国共産党にとって文字どおり死活問題だ。70年代末に毛沢東時代が終焉して以来、経済発展は中国共産党が自らの正統性を主張する最大の根拠となってきた。成長鈍化が長引けば、一党独裁に疑問符が投げ掛けられる恐れがある。

 そうなると党は、自らの支配を正当化する別の理由を探さなければならない。その場合、一番手っ取り早くて成功率が高いのは、愛国主義のカードを切ること。つまり国家の防衛を党の最大の使命に掲げることだ。

領土問題は大事な切り札

 中国共産党にとって、経済不振を外国の陰謀のせいにするのは簡単だ。毛沢東もかつて、中国が「後れを取っている」のは、「外国の帝国主義と国内の反革命的政府による抑圧と搾取のせいだ」と語ったことがある。

 中国経済は今も政府が統制しやすいシステムになっているから、党がその気になれば、国防産業に資源を重点的に配分する「戦時体制」を取るのは簡単だ。国防産業の強化は、重工業における過剰設備の問題を解消する助けにもなるだろう。

 対外的には、既に尖閣諸島や南シナ海の領有権問題で、中国は好戦的な姿勢を強めている。こうした領土紛争は、天然資源の利権をめぐる争いだと説明されることが多いが、中国共産党が国内問題から人民の目をそらすためにやっていると考えたほうが分かりやすい。

 おかげで中国の反日感情は最高潮に達しつつある。ネチズンは「不当に奪われた」領土を取り戻し、過去の屈辱に報いるとして、日本に対する武力行使を熱烈に支持している。

 このまま景気の減速が続けば、この種のナショナリズムは中国共産党にとって取っておきの切り札になる。そのためにも領土紛争は未解決のほうが、中国指導部にとっては都合がいい。

 それは、オバマ政権が好む関与政策に限界があることを意味する。緊張をあおることに自らの存続が懸かっているのだから、中国が領土問題で譲歩するはずはない。となると先月のような首脳会談をどんなに開いても、米中関係が改善することはない。

 そうである以上、アメリカはアジア太平洋地域における戦略的国益を守り、パートナー諸国との連携を強化することに集中するべきだ。とりわけ中国の軍事的冒険主義のターゲットになる可能性の高い日本と台湾との関係を一層強化するべきだ。

 最悪なのは、外交で中国に安易な勝利を与えて、共産党が国内の改革要求をかわすのを手伝ってしまうことだ。そんな事態は絶対に避けなければならない。

From the-diplomat.com

[2013年7月 9日号掲載]

ニュース速報

ワールド

焦点:冬を迎えた欧州、コロナ流行でインフル激減の可

ワールド

米、中国との文化交流5プログラム廃止 「政治宣伝に

ビジネス

ドル小幅高、英EU通商協議停止で=NY市場

ビジネス

米国株248ドル高、雇用統計低調で追加支援策に期待

MAGAZINE

特集:202X年の癌治療

2020-12・ 8号(12/ 1発売)

ロボット手術と遺伝子診療で治療を極限まで合理化 ── 日本と世界の最先端医療が癌を克服する日

人気ランキング

  • 1

    世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...

  • 2

    新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体

  • 3

    オーストラリアの島を買って住民の立ち入りを禁じた中国企業に怨嗟の声

  • 4

    日本の外交敗北──中国に反論できない日本を確認しに…

  • 5

    「残忍さに震える」金正恩式「もみじ狩り処刑」に庶…

  • 6

    マオリ語で「陰毛」という名のビール、醸造会社が謝…

  • 7

    「なぜ、暗黒物質のない銀河が存在するのか」を示す…

  • 8

    トランプが要求したウィスコンシン州の一部再集計、…

  • 9

    台湾外相が豪に支援要請、中国の侵攻回避で

  • 10

    夢の国ディズニーで働くキャストの本音

  • 1

    世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...

  • 2

    アメリカ大統領選挙、郵政公社がペンシルベニア州集配センターで1700通の投票用紙発見

  • 3

    半月形の頭部を持つヘビ? 切断しても再生し、両方生き続ける生物が米国で話題に

  • 4

    新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタ…

  • 5

    アメリカを震撼させるオオスズメバチ、初めての駆除…

  • 6

    女性陸上アスリート赤外線盗撮の卑劣手口 肌露出多…

  • 7

    アメリカ大統領選挙、ペンシルベニア州裁判所が郵便投…

  • 8

    オーストラリアの島を買って住民の立ち入りを禁じた…

  • 9

    事実上、大統領・上院多数・下院多数が民主党になる…

  • 10

    プレステ5がネット販売で「1秒後に売り切れ」、ゲー…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2020年12月
  • 2020年11月
  • 2020年10月
  • 2020年9月
  • 2020年8月
  • 2020年7月