最新記事

迫害

ビルマ少数民族女性へのレイプは続く

民主化が始まっても、ビルマ族の政府軍兵士によるカチン族女性への暴行は野放しのまま

2012年8月3日(金)14時06分
ハンナ・イングバー

正義はお預け ビルマ族とカチン族の抗争から逃れてきたカチン難民(今年2月、中国国境近くで) Soe Zeya Tun-Reuters

 ビルマ(ミャンマー)の民主化に一定の前進はあっても、少数民族、とりわけ女性たちの受難は終わらない。

 在タイ・カチン女性協会(KWAT)によれば、この5月にも政府軍兵士10名がビルマ・カチン州の教会に乱入、避難していた48歳の女性を3日にわたって監禁し、集団レイプした。

 また人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によれば、昨年10月にはカチン州の州都ミッチーナでカチン族20人が拉致され、うち女性2人が将校との性行為を強要された。そのとき拉致した兵士らは「カチンの女はビルマ族のペニスが好きなんだろ」とうそぶいていたという。

 ビルマ族の政府軍兵士による少数民族女性へのレイプは、今に始まったことではない。少数民族との抗争は48年の独立以来続いており、レイプ攻撃が組織的に行われてきた疑いもある。だが、この国が民主化に向けて歩み出し、14年にはASEANの議長国に就こうという今、こうした悪質な人権侵害に見て見ぬふりをすることは許されない。

 KWATによれば、昨年6月に停戦協定が破棄されて以来、カチン州では政府軍兵士によるレイプ事件が43件も起き、21人の女性や少女が殺害されている。戦闘を避けて中国との国境付近に逃げてきた避難民は、既に7万5000人に上る。

 HRWは、過去の事例も含め、レイプに関与した兵士らを訴追し、罪を償わせるべきだと考えている。実際、妻をレイプされた男性が兵士らを告発して最高裁に持ち込んだ例がある。法廷は取りあえず訴えを受理したが、あっさり軍人たちを無罪放免したという。

 その理由は、現行の憲法が軍人の刑事訴追を禁じているからだ。政府や議会の要職を軍人や軍出身者がほぼ独占している現状で、この免責特権が廃止される可能性は限りなく低い。

 一方で、今の時期に軍部を刺激するような行動は避けるべきだと考える活動家もいる。民主化の歩みが止まっては困るからだ。民主化の旗手アウン・サン・スー・チーも先の訪欧中に「今は報復ではなく、和解の時期だ」と発言し、性急な行動をいさめている。

 カチン族の女性たちも覚悟している。今は軍人による犯罪の事実調査と証拠収集に努め、正義を求めることのできる日が来るのを待つつもりだ。

From GlobalPost.com

[2012年7月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

富裕国の開発援助が後退、米は2つ落として28位=シ

ビジネス

金利正常化の時期、経済・物価情勢見ながら判断=小枝

ビジネス

10月コンビニ売上高は8カ月連続増、気温低下・販促

ビジネス

首都圏マンション、10月発売戸数28.2%減 23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 8
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 9
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 10
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中