最新記事

新興国

中南米の雄ブラジルを脅かすメキシコ経済

G20首脳会議の主催国を務め、経済成長も著しいメキシコがBRICsのブラジルに代わる日も近い?

2012年6月20日(水)16時43分
アレックス・レフ

ライバル対決 メキシコのカルデロン大統領(右)とブラジルのルセフ大統領(6月18日) Henry Romero-Reuters

 サッカー・ワールドカップ予選を控える中、6月3日の国際親善試合でメキシコ代表がブラジル代表に2-0で勝利した。

 ピッチの外でも両国は、中南米の経済大国の地位をめぐって戦いを繰り広げている。こちらの試合は「親善」とはいかない、熾烈なものだ。

 先制したのはブラジルだった。BRICSの「B」として、ロシアやインド、中国、南アフリカとともに世界最大の新興市場とされた。この呼び名が生まれた01年頃は、メキシコの成長率はこれらの国々に比べれば見劣りしていた。

 だがBRICSはいずれ、メキシコの「M」の字を加えることになるかもしれない(BRICMSとか?)。6月18日に開催された20カ国・地域(G20)首脳会議の舞台に選ばれたのもメキシコだ。メキシコ人実業家で、世界一の大富豪であるカルロス・スリムは、メキシコは15年以内に「先進国」になり得ると語る。

 もちろんブラジルも負けてはいない。20日からはリオデジャネイロで、「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」が開催される。

 それでも昨年は、メキシコの経済成長率はブラジルを上回り、今年もそうなる見通しだ。6月7日に国連が発表した経済予測によれば、2012年の成長率はメキシコが4%で、ブラジルは2.7%だ。

 今年に入って両国間の緊張が高まっているが、それはメキシコからブラジルへの自動車輸出台数が増加しているためだ。3月にはメキシコが折れる形で、ブラジルへの自動車輸出を減らすことを決めた。

 これについて、ロイターは次のように報じている。


 こうした対立は、中南米の二大経済大国の関係を損なっている。さらに自由貿易を信奉するメキシコと、保護貿易政策が目立つようになっているブラジルの違いも際立たせる。


「ビジネスのしやすさ」でもメキシコが優位

 今年1〜5月のメキシコの自動車生産と輸出は絶好調で、記録的な数字になっている。これは自動車に限った話ではない。ニューヨークタイムズ紙によれば「メキシコの工場からは記録的な量のテレビや自動車、コンピューター、電化製品が輸出され、アメリカにおける中国製品のシェアを奪っている」という。

 最近、ニューヨークに本社を置くクレジットカード会社の社員と話す機会があった。彼は不動産の購入を検討しているが、その場所としてはブラジルの都市より、メキシコシティーのおしゃれな地域に心が傾いているという。「ブラジルはあまり安全じゃない」と彼は言い、地下鉄の駅で目撃した武装犯による襲撃事件を引き合いに出した。そうした事件は、ブラジル政府がスラム街からギャングを締め出した結果起きているものだ。

 企業にとっても、ブラジルの魅力は薄れつつある。世界銀行が発表した2012年版「ビジネスをしやすい国ランキング」でブラジルは前年より順位を6つ下げて、183カ国中126位となった。一方のメキシコは順位を1つ上げて、53位だった。

 今やブラジルからメキシコへ「主役交代」の兆しが見られるという。ニューヨークの野村證券で働くアナリストたちは、次のように予測している。「過去10年にわたってブラジルは間違いなく、中南米で最も輝かしい成長を遂げ、投資家に十分なチャンスを与えてきた。だが将来的には、メキシコ経済がブラジル経済をしのぐようになると予想される。主役交代の時はゆっくりと、しかし確実に迫っている」

From GlobalPost.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中