最新記事

大統領選

フランス新大統領を待ち受ける二重苦

欧州債務危機と内政の綱渡り――財政赤字を削減しなければフランスにも欧州にも未来はないが、やり方を誤れば国民からの支持を失いかねない

2012年5月7日(月)14時48分
トレーシー・マク二コル

長年のツケ サルコジ(右)もオランドも、フランス政府が続けてきた放漫財政に無関係だったわけではない Stephane Mahe-Reuters

 フランスにとって、2012年は過去に例を見ない年になるはずだ。これまでフランスの大統領選では、内政問題が争点になるのが常だった。しかし、欧州を襲った債務危機がこの経験則をひっくり返した。

 フランスの未来は欧州の未来にかかっており、逆もまた真なり。欧州諸国が一刻も早く足並みをそろえて断固たる行動を取らなければ、日本型の「失われた10年」が待っているかもしれない──IMF(国際通貨基金)を率いるクリスティーヌ・ラガルド専務理事ら専門家からは、そんな警告の声が上がっている。

 フランスは長年、財政赤字を垂れ流してきた。社会福祉制度は国庫に重くのしかかっているし、歴代政権は改革に及び腰だった。そして民間銀行は、深刻な財政問題を抱える周辺諸国の国債を多く保有している。これでは、フランスの未来に向けた選択肢はおのずと限られてくる。

 英シンクタンクの欧州改革センターのチャールズ・グラント所長に言わせれば、「EU設立以来初めてドイツがトップの座を確立し、フランスはナンバー2になった」。同時にEUやドイツ、ギリシャ、イタリアなどの決定が、自国政府の決断と同じくらいフランスの未来に大きな影響を及ぼす時代が突然やって来たのだ。

選挙は経済回復に逆効果

 格付け会社も、フランスの政策に厳しい目を向けるようになった。米格付け会社のムーディーズは10月、フランスの信用格付け(現在は最上級の「Aaa」)について、これまで「安定的」としてきた見通しを3カ月間かけて見直すと発表。スタンダード&プアーズ(S&P)も12月、ユーロ圏15カ国の国債の格付けを引き下げる方向で見直す方針を明らかにした。

 フランスの運命は世界金融市場からの信認、つまり「フランス財政が破綻する危険はなく、そろそろ財政規律へと舵を切るはずだ」と世界に信じさせることができるかどうかに懸かっている。「もはやユーロを救う手だてなどフランスにはない」と、コラムニストのニコラ・バブレはルモンド紙に書いた。「だがフランスが立ち直れなければ、統一通貨圏の崩壊の引き金になりかねない」

 もはやヒーローにはなれない。緊縮財政も避けられない。失業は99年以降最悪の水準にある。OECD(経済協力開発機構)によれば、フランス経済は「短い軽度の景気後退に突入した可能性があり」、さらなる財政引き締めが必要だという。

 選挙が近づくと、候補者がばらまき政策を公約したりするのは当たり前だが、今の状況下では市場の信認を遠ざけるだけ。フランスの国家財政は74年以降、赤字続きで、とりわけ大統領選の年には赤字幅が減ったためしがない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中