最新記事

環境

「非エコ企業」が儲ける排出取引の矛盾

インドには、一方で環境汚染で深刻な被害を引き起こしながら他方で炭素クレジットで大儲けする企業がある

2011年7月1日(金)13時27分
ウィル・エバンス(グローバルポスト)

垂れ流し ごみ処理場の煙突から立ち上る煤煙(インド北部) Ajay Verma-Reuters

 エコとは言えない企業が「エコ商品」で儲けまくる──かつて経済合理性を生かした環境対策として注目された排出権取引が、そんな皮肉な状況を生んでいることが明らかになってきた。

インド南部タミルナド州に拠点を置く化学品会社ケムプラスト・サンマーがいい例だ。数十年前から冷媒ガスや溶剤、ポリ塩化ビニルを生産してきたが、実はもう1つ目に見えない「商品」がある。炭素クレジットだ。

 これは温室効果ガスの削減量を示す取引単位で、1単位はCO2排出量1トン分に相当する。欧米の企業は排出量の基準を守るために、主に途上国の企業が削減した分を買い取って補う。その取引額は世界で数千億㌦規模に拡大。ケムプラストだけでも年間1000万ドルに達する。

 しかしこれは、エコではない企業を甘やかす制度だと批判する声もある。今でこそケムプラストはクリーン操業が売りだが、長年にわたって工場排水を川に垂れ流していた。09年9月以降は1滴も排水を出していないと胸を張るが、活動家らの調査によれば、少なくとも04年から放出停止を当局から迫られていた。

 09年には川に流された排水から発癌性の塩化ビニルが検出。04年と07年には塩素ガス漏れもあった。地元では同社のせいで水と大気が汚染され、呼吸器系疾患や発疹、死産を経験した者もいるとの話が広まっている。

 もっとも、こうした問題は炭素クレジット集めに何ら影響しない。ケムプラストは07年以来、冷媒ガスの副産物HFC─23を焼却処理して炭素クレジットを稼いできた。HFC─23の温室効果係数は、CO2の実に1万1700倍。今や炭素クレジットで稼ぐ金額は冷媒ガスの売り上げの倍近くに達する。

 しかし環境に悪影響を及ぼす冷媒ガスの生産活動で儲けることが問題視され、欧州では13年5月以降、HFC─23の処理に炭素クレジットを与えることを認めないことになった。

 とはいえ今後も、エコとは言い難い企業が炭素クレジットで儲ける図式はなくなりそうにない。08年にケムプラストから5年契約で320万単位の炭素クレジットを買い取った大手証券会社系の会社は、それを欧米の化学会社に転売。この化学会社は自社の排出量をより高い値で売り、結局は利益を上げた。

 こうした動きに歯止めをかけるには相当な知恵が必要だ。

[2011年6月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中