最新記事

避妊

注射1本で効き目10年の男性用避妊法

コンドームもパイプカットもいらなくなる画期的避妊法が、人口増加に悩むインドで完成間近

2011年7月14日(木)17時02分
ジェイソン・オーバードーフ

生殖革命 子供が欲しくなったらまた注射1本で生殖能力を取り戻せる Jayanta Dey-Reuters

 およそ400年前、ある賢人が自分の男性器に羊の腸を被せるというアイデアを思いついた。これがコンドームの始まり。以来、様々な改良が重ねられてきたとはいえ、男性用避妊具は基本的には今も初期の形状を踏襲している。

 だが間もなく、男性の避妊法をめぐる常識が一変する日が来るかもしれない。

 インド人技術者のスジョイ・K・グハは30年に及ぶ研究の末、生殖技術の世界でピル(女性用経口避妊薬)以来の大革命となりえる画期的な避妊法を完成させようとしている。今回のターゲットは男性だ。

「管理下における精子の可逆的抑制」の略称で「RISUG」と名づけられた新メソッドは、精管にゲル状のポリマーを注入し、精子の細胞膜を破裂させて受精能力を奪うというもの。1回の注射で効果は10年。外科的手術を受けることなくパイプカット(精管切除)と同じ効果を得られるうえに、性欲減退などの副作用もないという。

生殖機能の回復も注射1本で簡単に

 それだけではない。猿などを使った動物実験では、別の薬剤を注入することで、簡単に生殖機能が回復することも確認されている。つまり、この方法を使えば、ホルモン剤を使わなくても一時的に生殖機能を停止でき、しかも好きなときに元の機能を取り戻せるのだ。

 今も女性の避妊手術が最もポピュラーな避妊法だというインドにとって、この発明は劇的なインパクトをもたらすかもしれない。インドでは、37%の女性がリスクの高い卵管切除手術を受けているのに対し、パイプカット手術を受ける男性はわずか1%。人口を抑制するために男性の手術率を引き上げたい当局は、様々なインセンティブを用意している。ラジャスタン州では、手術を受けた男性は銃のライセンスに加えて、車とオートバイ、テレビまでもらえる。

「体にメスを入れる必要がないのは、RISUGの重要なメリットの1つで、心理的インパクトは大きい」と、グハは言う。「2つ目の利点はもちろん、機能が復活する可能性がある点だ」

 RISUGによる避妊法は、まだ商品化には至っていない。だが、長年に渡って人知れず重ねてきた研究は最終段階を迎えている。

アメリカでも使用可能になりそう

 新薬開発はすでに人間を対象とした大規模な臨床治験を行う第3フェーズに入っている。被験者らの中には15年間に渡って新薬を問題なく使用している人もおり、早ければ来年にも限定的ながら、一般の使用も認められる見込みだ。ただし、人間の場合にも生殖機能が回復するかどうかはまだ確かめられていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ、鉱物協力基金に合計1.5億ドル拠出へ

ワールド

中韓外相が北京で会談、王毅氏「共同で保護主義に反対

ビジネス

カナダ中銀、利下げ再開 リスク増大なら追加緩和の用

ワールド

イスラエル軍、ガザ市住民の避難に新ルート開設 48
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中