最新記事

原子力

チェルノブイリはまだ終わっていない

史上最悪の原発事故と過去形で語られるチェルノブイリは、25年を経てもまだ危険で手のかかる存在だ

2011年4月20日(水)16時40分

癒えない傷 脆くなった「石棺」と、命懸けの消化活動を行った英雄たちの碑(手前右) Gleb Garanich-Reuters

 旧ソ連のチェルノブイリ原発事故25周年を間近に控え、原子力の安全性向上を話し合う会議に出席するため各国代表がウクライナの首都キエフに集まった。会議のもう一つの目的は、内部に未だ大量の放射能を抱えたチェルノブイリ原発の脅威が表出しないよう、新たな安全策を講じるための資金支援を募ることだ。

 ウクライナ政府に当初の目標金額は10億ドルだったが、各国から提供が約束された支援金は7億8500万ドル。ロイター通信によれば、ウクライナのヤヌコビッチ大統領はこの金額を段階的なものだと考えていると語ったという。

 86年に発生したチェルノブイリ原発事故は史上最悪の放射能漏れを起こし、現在も周囲30キロの立ち入りが規制されている。事故当時、強制的に立ち退きを余儀なくされた11万人以上の住民は、25年経った今も元の場所に戻れない。

 AP通信によると、支援金は炉心溶融事故を起こした原子炉を覆う最先端のシェルターと、使用済み核燃料の貯蔵施設を建設するためのもの。

 事故を起こした原子炉は放射性物質とともに「石棺」と呼ばれるコンクリート製の建造物のなかに封じ込められているが、石棺は老朽化で脆くなり最近強化されたばかり。新シェルターは、問題の原子炉を石棺ごと覆う。

 今回の会議の共同議長であるフランスのフランソワ・フィヨン首相は、福島第1原発で起きた事故がチェルノブイリの記憶を呼び起こしたと語った。「こうした惨事が及ぼす影響を抑え、未来に向けて備えるために、連携して取り組むことが我々の責務だ」

選挙や経済低迷を理由に支援をやめた国も

 EC(欧州委員会)のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長は、チェルノブイリの新シェルター建設にEU(欧州連合)から1億5600万ドルを拠出すると約束した。「福島原発での出来事は、この問題がはらむ危うさを私たちに再確認させた」とバローゾは言う。「チェルノブイリを環境的に安全で、しっかり管理された場所に変えるため、40以上の国と国際機関が本日ここに集まり、結束を強く示した」

 ヤヌコビッチ大統領は、会議開幕時の演説でこう語った。「チェルノブイリの大惨事は、ウクライナが今後も長い間向き合っていかなければならない深い傷を残した。国際社会がこれをウクライナだけの問題にしないでくれたことに感謝する」

 ただ、これまでチェルノブイリに多額の支援を行ってきた国の中でも、自国の厳しい経済状況や選挙が迫っていることを理由に、今回は支援の約束をしなかった国もある。

 ウクライナ政府も4100万ドルの拠出を約束したと、ヤヌコビッチは言う。「あの大惨事は何百万人という人々に影響を及ぼした。死者数は数千人に達し、今も何万人もの人が苦しんでいる」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中