最新記事

イタリア

リビア空爆で窮地のベルルスコーニ

多国籍軍で重要な役割を担いながら、カダフィ政権とも深〜い関係にあるイタリア政財界のジレンマ

2011年3月23日(水)17時17分
アレサンドロ・スペシアレ

友達だったのに リビアのカダフィ大佐(左)と政治的にも個人的にも関係が深かったベルルスコーニ(10年6月) Reuters

 ヨーロッパでリビアと最も近い関係にあるイタリアは、今回の多国籍軍によるリビア空爆において重要な役割を担っている。自国の戦闘機による出撃に加え、多国籍軍に対し国内の空軍基地7カ所の使用も許可している。

 ただし今回のリビア危機からは、イタリア国内で多くの問題を抱えるシルビオ・ベルルスコーニ首相の求心力のなさが見えてくる。政権内では、軍事行動をためらう声が上がっているのだ。

 連立与党の一角で、反移民政策を掲げる北部同盟のウンベルト・ボッシ党首は、リビア空爆が開始される前にこう語った。「われわれの石油とガスが奪われてしまい、大量の移民がイタリアに流入するだろう」

 ベルルスコーニへの反発は高まっている。リビア介入に関する決議を可決させるにも、既に野党の票を必要とし、今後もこうした劣勢に立たされる可能性が高い。

 フランコ・フラティニ外相は21日、リビアに対する軍事作戦の指揮権はNATO(北大西洋条約機構)に与えられるべきだとし、イタリアの基地の使用を拒否すると脅しをかけた。NATOの指揮権に反対するフランスは、現在、米英軍と一緒に攻撃を指揮している。

「リビア危機に対してイタリアは難しい立場にある」と、政治評論家のアレサンドロ・カンピは言う。「ベルルスコーニはカダフィと政治的、そして個人的な関係を築いていた」

リビア経済への影響力を失う

 リビア空爆に対するイタリア政府の慎重さが「あいまい」に見えたとしたら、その理由はイタリアがリビアと経済的・地政学的に緊密な関係にあるからだと、カンピは言う。

 例えば08年、イタリアはリビアとの「友好条約」を締結した。この条約でイタリアは過去の植民地政策の補償として、リビアに対し向こう20年間で50億ドル投資することで合意。このインフラ開発援助はひも付きで、イタリア企業が受注することも決められた。既にリビアの海岸線1700キロに伸びる道路はイタリアのインプレジロが受注している。しかし今回の騒乱でリビアの政権が変われば、こうした契約は失効されるだろうと、イタリアのルイース大学の経済学者ニコラ・ボッリは言う。

 問題はそれだけではない。ボッリによれば、「リビアはイタリアの石油の25%、天然ガスの10%を提供している。その大半はイタリア企業と長期契約を結んで市場価格よりも低い価格で売っている。リビアで政変が起きても、この契約は継続されるのか? どこがリビアの資源開発に入るのか?」と指摘する。フランス最大の石油・天然ガス会社トタルがその隙間を埋める可能性もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中