最新記事

テロ

貨物機テロ防ぐサウジアラビアの諜報力

アルカイダのテロ計画に関する情報収集で欧米も頼りにするサウジアラビア当局の活動の実態

2010年11月8日(月)17時17分
山田敏弘(本誌記者)

危機一髪 イエメン発アメリカ行きの貨物機から爆発物が発見されたイギリス中部のイースト・ミッドランズ空港 Darren Staples-Reuters

 10月末にイギリスとドバイの空港で、イエメンからアメリカへ向かう貨物機から爆発物が発見されたが、その背後には意外な国の活躍があった。サウジアラビアだ。

 小包の中から発見された爆発装置はプリンターを改造したもので、携帯電話に接続されたトナーカートリッジにPETN(高性能爆薬)が仕込まれていた。イギリスのテリーサ・メイ内相は、爆薬について「飛行機を墜落させるのに十分な威力の量」だったと語っている。

 9・11テロ以降、航空機の荷物や貨物のチェックは強化されているが、今回の小包爆弾は荷物検査で発見されたわけではない。実際は、サウジアラビアの諜報当局からの情報提供のおかげだった。情報源は、イエメンを拠点とするアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の幹部ジャビル・ファイフィ。先月投降した彼から情報を得て、サウジ情報機関が小包の具体的な追跡情報を欧米に通告したのだ。

テロは根絶ではなく監視するもの

 近年、サウジアラビアは欧米を狙ったテロの情報収集において重要な役割を果たしている。03年以降の度重なるテロ攻撃など、自国もアルカイダの脅威にさらされていることから、監視活動に力を入れている。

 特にイエメンでの諜報能力は際立っており、国際社会もその恩恵を受けている。イエメンは現在、パキスタンやアフガニスタンを追われたアルカイダのメンバーの巣窟と化している。AQAPを始め、欧米だけでなくサウジアラビア王政の打倒を目指してテロを画策する過激派が逃げ込んでいる。そのためサウジ総合情報庁はひときわ目を光らせており、その活動を通じて欧米を狙ったテロ計画の情報もつかんでいる。

 中東情勢に詳しいノルウェー防衛研究所(FFI)の上級研究員トーマス・ヘッグハマーは、「ここ6、7年の間、サウジ当局はイエメンに工作員を派遣し、情報提供者のリクルート活動などを強化している」と言う。「アルカイダ内部にも工作員を潜入させているとみられる」

 サウジアラビアはテロの標的にされている国々に対し、定期的に情報を提供している。以前は関与しない立場をとっていたが、03年以降に欧米から強く求められて協力的な姿勢を見せるようになった。10月半ばには、AQAPがテロを計画しているとの情報をフランス政府に提供。同国では、すぐに全土で警戒態勢が敷かれた。

 専門家らによれば、サウジアラビアの諜報機関の特徴は、テロは根絶するものではなく、監視するものと認識していること。テロリストを片っ端から殺害・拘束するアメリカなどと違い、テロリストを泳がせて監視を続けることで、最大限の情報をつかむことに成功している。

サウジ諜報機関の「別の顔」

 潤沢なオイルマネーもテロ対策を支えている。「サウジ当局はイエメン政府や地方の部族に対して多額の資金を投じている」と、カーネギー国際平和基金中東部門のクリストファー・ボウセックは言う。「そのうえ、対テロ対策の分野ではアメリカともかなり密に協力している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中