最新記事

社会

僕の北欧的「イクメン」奮闘記

スウェーデンに移り住んだアメリカ人筆者が、笑いと涙の育休生活を語る

2010年10月25日(月)16時02分
ネイサン・ヘジェダス

Yuriko Nakao-Reuters

 1年半近く、僕は毎日午前4時に起床した。眠りの浅い赤ん坊の息子が目を覚ますからだ。3時間後スウェーデン人の妻が仕事に出掛けると、もう1度朝食を作り、息子と4歳の娘を着替えさせ、保育園へ娘を送っていく。それから息子を連れて近所の公園へ行き、砂場で遊ぶ。子供用のおやつを入れたバッグを用意するのも、おむつを替えるのも僕の役目だった。

 僕は失業中でも専業主夫でもない。「まとも」な仕事を持つ身だが、昨年12月から働いていないだけだ。スウェーデンに移住した僕が過去36カ月のうち、2人の子供の面倒を見るため育児休業を取った期間は計18カ月。もちろんその間も給料はもらっている。

 スウェーデンの首都ストックホルムの街は約15年前からベビーカーを押す男たちであふれている。95年当時、子供1人当たり計480日間保障されている育児休業期間(男女を問わない)のうち、スウェーデンの父親は6%しか取得していなかった。その後、政府は480日間のうち30日を父親のみが取得できる育休期間とし、02年にはその期間を60日に延長(女性のみの期間も同様に60日)。08年に、男女双方が育休期間60日を超えて休業を取得したカップルに税還付の形で「ボーナス」を支給する制度も始めた。

 今では父親の8割以上が育休を取り、その取得日数は全期間の約4分の1を占めるまでになっている。
3月の月曜日の午後にでも通りを歩けば、子供連れの男性にしょっちゅう出くわす。

 ストックホルム郊外に住む僕の近所で、そうした男性の多くが目指す先は誰でも利用できる保育所だ。自治体が運営する施設にはコーヒーが用意され、アドバイスをくれる保育士もいるし、子供が遊ぶおもちゃもある。日によっては、おしゃれなTシャツにパンツ姿のクールなパパたちが床を占領している。部屋の隅には内気そうなお父さんがいるし、キッチンスペースではタトゥーを入れた男が1人か2人、わが子にご飯を食べさせている。

 面白いのは、こうした父親たちはまるで母親のようだということ。話すのは子供のうんちや睡眠のこと、育児でどれほどくたくたか、子供がいつはいはいしたり歩き始めたかということばかりだ。

「娘さんはいくつ?」
「9カ月。昨日はいはいするようになったんです」
「うちの子は最近あまり寝てくれなくて。歯が生え始めました」
「育休はいつまで?」
「あと3カ月。この施設のおかげで助かる」

──といった具合だ。

 男性が育児に励む「ダディーランド(父親の国)」とは、どたばたコメディーさながらの世界だろうと、以前は思い込んでいた。うんちまみれの父親、自動車オイルまみれの赤ん坊、無理やりサッカーの試合へ連れていかれて泣きわめく子供......。今ならこんな想像が僕のスウェーデン人の「同志」たちにとって、どれほど失礼だったかが分かる。

育休の申請に、上司の反応は「あ、そう」

 僕と同世代かそれより若いスウェーデンの父親は、自信を持って子供の面倒を見られる男性になるよう育てられている。男も育児をして当たり前だと彼らは思っているし、彼らの妻やパートナーもそう思っている。僕はこの事実に驚愕し、拍子抜けした。

 職場の環境も育児の現実に応じたものになっている。大半の企業は育休中の従業員の穴を埋めるため短期契約の臨時社員を雇う。この手法は本採用に向けた試験採用制度としても役立っているようだ。スウェーデン社会では、より根源的な変化も起きている。「男らしさ」という概念の変化だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給

ワールド

米東部の高齢者施設で爆発、2人死亡・20人負傷 ガ

ワールド

英BP、カストロール株式65%を投資会社に売却へ 

ワールド

アングル:トランプ大統領がグリーンランドを欲しがる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中