最新記事

中国

「官製メディア」新華社の膨張

ニュース離れもどこ吹く風、公正さより安さを武器に中国ソフトパワーの先兵として世界を狙う

2010年10月14日(木)15時47分
アイザック・ストーン・フィッシュ(北京支局)、トニー・ダコプル

 昨年10月、北京の人民大会堂で開かれた3日間の会議は、重要な国際会議の特徴をすべて備えていた。大企業の出席(グーグル、BBC)、重要なテーマ(デジタル時代)、世界的な大物による講演。この場でニューズ・コーポレーションのルパート・マードック会長は、「コンテンツ泥棒」との戦いを誓いさえした。

 にもかかわらず、この「世界メディアサミット」をメディアは取り上げなかった。特に英語圏ではほとんど報道されなかった。このサミットは中国共産党の公式報道機関である新華社通信主催のプロパガンダの祭典とも言うべき「メディアのオリンピック」だったからだ。しかし中国の思惑が当たるとすれば、世界はいつまでも新華社を無視するわけにいかなくなる。

 新華社は長年、中国では無視できない存在だった。公式ニュースを独占し、他のメディアを規制する権限を持っている。

 しかし国の財力も国際的地位も向上した今、中国政府は欧米メディアから無視もしくは中傷されていると感じることに嫌気が差している。そこで新華社の役割を見直し、国外でソフトパワーを行使するツールへと生まれ変わらせた。

ニュースは抑えず「圧倒」する

 約80年の歴史を誇る新華社は、この1年間に英語による国外向けテレビの24時間放送を開始し、ニューヨークのタイムズスクエアにある高層ビルに新しいオフィスを構え、取材活動を拡大する計画を発表している(国外支局を120から200に、ジャーナリストを6000人に増やすという)。欧米メディアに対抗し、「ニュース、漫画、金融情報、娯楽番組を24時間」楽しめるiPhone用アプリケーションもリリースしている。

 その費用は推定数十億ドル。生まれ変わった新華社はいわば高価な「拡声器」だ。それでも、欧米の「独占と思想的な覇権を打破する」カギだと、新華社の社長は昨年コメントしている。

 新華社の関係者への取材は、「休暇シーズン」を理由に断られた。しかし明らかに、最近の取り組みはプロパガンダの新ルールに沿っている。かつてはニュースを抑え込むのが狙いだったが、今ではニュースを圧倒すること、市場に独自の情報をあふれさせることが目的になっている。写真を修整するより、よほど高度だ。

 問題は視聴者探し。新華社の「ニュース」は何より死角の多さで有名だ。典型的な新華社の文章はぎこちなく、わざと不正確にしていることも多い。新華社にかかれば、天安門事件は事実無根、気功集団の法輪功は邪悪なカルト集団で、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世は陰謀家だ。

 新華社は公にしにくいこと(昨年夏のウイグル暴動で市民の首が切断されたとされる事件の様子など)も取材し、中国当局者だけに報告する。言ってみれば、ニューヨーク・タイムズ紙がスクープに「内部資料」のスタンプを押してバラク・オバマ米大統領に直接提出するようなものだ。

 にもかかわらず、新華社がニュースの未来を象徴していると言えるかもしれない大きな理由がある。コストだ。

 世界の大半の報道機関は支局を閉鎖し、ジャーナリストを解雇している。しかし「紅色中華通信社」という中国共産党軍の宣伝機関が前身の新華社は、採算を気にしなくていい。おかげで、中国の国営工場が安物の玩具や安物衣料でやってきたのと同じことをニュースでやれる。「商品」を誰よりも安く世界に押し付けるのだ。

「そうすれば、競争上の優位は付いて回る」と、米格付け会社スタンダード&プアーズのメディア・アナリスト、トゥナ・アモビは言う。新華社の安いニュースは「成功するかもしれない」と、アモビは考えている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米2月ADP民間雇用、予想上回る6.3万人増 過去

ワールド

イラン軍艦がスリランカ沖で沈没、米潜水艦が攻撃 少

ビジネス

フィッチ、インドネシア見通し「ネガティブ」に下げ 

ワールド

中国政協開幕、軍トップ張氏ら政治局員2人が姿見せず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中