最新記事

ロシア

美人スパイの稼ぎは米政府のものに?

ロシア人スパイがその「悪名」を利用して儲けた金は米政府に納める。そんな条件付きでスパイ交換が行われたが──

2010年7月12日(月)16時04分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)

売れるネタ チャップマンの元夫のインタビューを1面に掲載した英デイリー・テレグラフ紙 Luke MacGregor-Reuters

 アメリカとロシアが7月9日に行ったスパイ交換は、確かにバランスを欠いていたようだ。

 アメリカで捕まった10人のロシア人スパイと引き換えに、オバマ政権がロシアから取り戻した収監中のスパイはわずか4人。だが米安全保障当局者によると、4人のうち少なくとも1人はまさに英雄だ。彼は、ロバート・ハンセン元連邦捜査局(FBI)特別捜査官というソ連の大物スパイの摘発に協力したという。

 もっとも、ある意味ではロシア側も勝利したと言えるだろう。今回交換されたスパイは金を稼ぐことができるかもしれないからだ。

 米検察当局はロシア人スパイとの取引に特別条項を盛り込んだ。スパイの「悪名」を生かして収入を得た場合、その金を米政府に納めることを義務付ける条項だ。しかし、スパイたちがアメリカの裁判所の管轄外に出てしまった今、司法省はその条件を強制できるのだろうか。

 ロンドンの著名弁護士ジェフリー・ロバートソンによると、その条項は当てにできないようだ。過去には、ソ連のスパイだったジョージ・ブレークが1966年にロンドンの刑務所から脱獄後、自伝を出版して好評を博した。だがイギリス当局は、彼が本で得た収入を差し押さえることに成功したという。ただし、ブレークは英諜報機関MI6に浸透していたため、そもそも法的に秘密を保持する義務があった。

 今回交換されたロシア人スパイたちは米政府に浸透できていなかったため、欧州人権条約によって言論の自由(回顧録の執筆を含む)が保障されるだろうと、ロバートソンは言う。

「彼女なら何十万ポンドも稼げる」

 イギリスの扇情的なタブロイド紙は既に、おいしいネタと写真を求めて特定のスパイに目を付けている。交換された10人のうち最も重要ではないかもしれないが、最もセクシーな女性アンナ・チャップマンだ。

「彼女なら何十万ポンド(何千万円)も稼げるかもしれない」と、暴露ビジネスを専門とするロンドンのPR業者マックス・クリフォードは言う。彼はチャップマンの元夫の契約を仲介した。元夫は彼女のヌード写真を売り、彼女の変貌ぶりについて証言している。

 英タブロイド紙のあるベテラン編集者は、これまで出回っているチャップマンの写真は非常に魅力的なので、あらゆる手段を使って彼女のほかの写真を探したくなるほどだと言う。

 米司法省の広報担当者は、こうしたスパイの「不当利益」をどう防ぐのかという問いに対して、コメントを拒否した。だが、ある元政府弁護士は「困難を巧みに乗り越える司法省の能力は決してばかにできない」と言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シカゴ連銀発表の米小売売上高、9月は+0.5% 前

ビジネス

米BofAの7─9月期は増益、投資銀行業務好調で予

ワールド

米韓通商協議に「有意義な進展」、APEC首脳会議前

ワールド

トランプ氏、習氏と会談の用意 中国「混乱の元凶」望
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中