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中国人がはまるバーチャル農村体験

農業ネットゲームや農家見学ツアー、自家菜園が人気。都市部の中流層は今なぜ「農業」にはまるのか

2010年5月19日(水)14時43分
アイザック・ストーン・フィッシュ

 中国のインターネットでは今、農業が熱い。08年にオンラインゲーム「開心農民」が登場してからというもの、推定8000万人(中国のネット人口の約20%)がオリジナル版や多くの類似ゲームにはまっている。

 何千万もの人々が毎日(1日に何回も、という人もいる)ログインして、必死でポイントを稼ぐ。やることは一見単調だ。スクリーン上の小さな畑で大根が育つ様子を見守り、バーチャル農園に水や肥料をやり、草むしりをし、収穫する。アメリカで人気の「ファームビル」同様、他人のバーチャル農園を手伝うこともあれば、他人の野菜を盗む場合もある。

 開心農民の人気の背景には、伝統的な農村生活に対する郷愁の高まりがある。過去30年間、中国では2億2500万人の農民が、仕事とより良い暮らしを求めて都市に押し寄せた。その結果、経済は大きく成長し、高層ビルの建設とインフラ(社会基盤)整備が急ピッチで進み、新しい都市が次々とできた。

 そんな場所に迷い込んだ人たちは、故郷に置いてきた地縁・血縁の温かさに飢えて開心農民のようなゲームに救いを求める。

 中国の都市住民は孤独だ。08年にMTVが行った調査によれば、中国はアジアで唯一、現実の友人よりもオンライン上の友人のほうが多い国だ。国営メディアでは先日、平日はバーチャル農園の世話をし、週末になると現実の市民農園に行くという男性が紹介されていた。バーチャルは「現実の経験の代わり」なのだ、と。

 速過ぎる経済成長が環境破壊を招いているのではないか──都会に住む中流層の間で高まるそんな懸念も、開心農民ブームの追い風となっている。大気汚染はひどいし、食の安全も気になるところ。しかし開心農民ゲームの平和な世界で遊んでいる限り、農村には今も自然と共生する暮らしがあるという幻想に浸っていられる。

 60〜70年代の文化大革命の影響も残っている。当時、毛沢東は都会の若いエリート層を大量に農村へ送り込んで農業に従事させ、革命の原点が農村にあることを「学習」させた。

 実際の文革期は苦難に満ちた過酷な時代だった。しかしあの時代に育ち、生き抜き、毛沢東主義から「赤い資本主義」への移行を経験した人々の多くは、物事が今よりずっと単純だったあの時代を懐かしく思ってしまう面もあるのだろう。

疑似体験では終わらない

 彼らの子供の世代は初めから都会暮らしで、既に成人して親となった者もいる。そんな彼らも、やはり昔を美化しがちだ。あの時代、農民は毛沢東の「平等主義」を体現する存在として最も尊敬されていた。

 人気上昇中の「農家楽」ツアーも、農村の暮らしを体験したいという都市住民の願いに応えるものだ。参加者は手を汚さずに農村の暮らしを体験できる。バスで農村に行き、「自称」無農薬野菜を使った料理を味わい、魚を放した池で釣りを楽しむ。

 だが開心農民ゲームは、そんな擬似農村体験の自己満足に終わらない。ゲームにはまった都市住民の一部は、バーチャル空間で野菜を育てるだけでなく、現実の生活態度も変え始めている。

 中国南部では、都市住民が本当に農村で畑を借りて自家菜園を造り始めた。自分の借りた区画は自分で責任を持つ。このシステムは開心農民と呼ばれることが多く、中国のメディアはこの現象を「開心農民ゲームのリアル版」と紹介している。

 バーチャル農園ゲームの波及効果と言うべきか、自分の借りた現実の菜園にビデオカメラを設置し、平日は自宅からモニターしている人もいる。リゾート地として有名な海南島には「ミニ農園」を売る店もある。小さな箱に土と豆の種を入れたもので、買って帰れば都会のアパートでも育てられる。

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