最新記事

オリンピック

ロシアはソチ五輪でも惨敗する

バンクーバーでの国辱的大敗は戦争に負けたぐらいの一大事。メドベージェフ大統領は責任者の大量解任を命じたが、それでも問題は解決しない

2010年3月4日(木)18時12分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局長)、アンナ・ネムツォーワ (モスクワ支局)

落日の象徴 銅メダルに終わったアイスダンスのドムニナ、シャバリン組 Lucy Nicholson-Reuters

 先日閉幕したバンクーバー冬季五輪において、ロシア勢の成績はひどいの一言では片付けられないものだった。

 ロシアにとってアイスホッケーは一種の戦争であり、フィギュアスケートはトルストイやドストエフスキーに並ぶ文化的な宝。そんな「スポーツ大国」にとって、今回の事態は国を揺るがす一大事だった。次回14年の大会はロシアのソチで行なわれることを考えればなおさらだ。

 ロシア政府がウィンタースポーツをどれほど重視しているかは、情けない獲得メダル数(金3つ、銀と銅が合わせて12)に対するドミトリー・メドベージェフ大統領の怒りを見ればよく分かる。

 メドベージェフは改革派と呼ばれることもあるが、それ以前に元官僚だ。そして彼は、今回のロシアの惨憺たる成績の責任は自分と同じ官僚たちにあると考えた。

「今回の準備の責任を負っている個々人、もしくはその一部は、勇気ある決断をして辞意を表明すべきだ。決断力を見せられないなら、こちらが手を貸してもいい」

 この10年、ロシアはさまざまな災難に見舞われてきた。潜水艦の沈没事故にモスクワの劇場占拠事件など......。だが大統領が高官の大量解任を命じるのは異例だ。

 とはいえこれで一段落と思ったら大間違いだ。真の問題は責任者は誰かということだけではない。この点をロシア政府が理解できない限り、ソチ五輪はバンクーバーの二の舞になる。

コーチの国外流出が止まらない

 まず大きな問題としては、トップレベルのコーチたちの国外流出が続いていることが挙げられる。

「ソ連時代のスポーツ制度が崩壊して以降、新たなスター選手を育て上げる時間が足りなくなった」と語るのはシャミル・タルピシェフ。国際オリンピック委員会(IOC)委員で、生前のボリス・エリツィン元大統領のテニスコーチを務めたこともある人物だ。

 外国との行き来が自由になり、国のスポーツ制度が解体されたことを背景に、コーチがカネで動く風潮が生まれた。

「(かつての育成制度の代わりに)どのように新しいものを築き上げるかについて、まともなアイデアは出ていない。わが国の最も優れたウィンタースポーツの指導者たちはロシアを去り、外国のチームを教えている」とタルピシェフは言う。

「彼らに払われる報酬も敬意も(外国のほうが)比べものにならないくらい高い。ロシアに残っているのは、テレビ番組で映画スターに氷の上での踊り方を教えているコーチくらいだ」

 いい例がロシア出身のアイスダンスのコーチ、マリナ・ズエワだ。今大会、彼女が指導したカナダのテッサ・バーチュー、スコット・モイヤー組は金メダルを獲得。アメリカのメリル・デービス、チャーリー・ホワイト組は銀メダルを獲得した。

強化費の使い方も「勘違い」

 91年に国を離れたズエワ以外にも、欧米諸国で活躍している旧ソ連の元スター選手は数多い。同じくアイスダンスのナタリア・リニチュクとゲンナジー・カルポノソフは、アメリカ代表のタニス・ベルビン、ベンジャミン・アゴスト組のコーチを務めた。

 ロシア人コーチは「心も魂も、持っているものすべてをわれわれに与えてくれる」とアゴストはバンクーバーで記者団に語った。「彼らがいなかったら我々はここまで来られなかった」

 有能なコーチの不在は、ロシア側もひしひしと感じている。アイスダンスのロシア代表、オクサナ・ドムニナ、マキシム・シャバリン組は銅メダルに終わった。「コーチたちをロシアに呼び戻す必要があると思う」とシャバリンは嘆いた。

 コーチだけでなく選手の国外流出も起きている。トップクラスの選手たちが続々と国籍を変更しているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、2029年までに新車への自動ブレーキ搭載を義務

ワールド

豪小売売上高、3月は前月比0.4%減 予想外のマイ

ワールド

中国製造業PMI、4月は50.4に低下 予想は上回

ビジネス

中国非製造業PMI、4月は51.2 拡大ペース鈍化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中