最新記事

民主主義

アフガン不正選挙が「正しい」理由

それでもアメリカはカルザイ大統領を支持するのか。不正選 挙疑惑はアフガニスタン政策を見直すいい機会だ

2009年9月10日(木)18時38分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

見かけ倒し 投票箱を並べるだけでは意味がない(8月20日、投票にきたカルザイ) Lucy Nicholson-Reuters

 8月に行われたアフガニスタンの大統領選挙で現職ハミド・カルザイ大統領の支持者が不正をしたという疑惑に接し、アメリカでは欲求不満と失望が広がっている。何しろカルザイは、戦争で引き裂かれたこの国の民主主義を再生するためアメリカが手ずから選び、指導者に引き上げた男なのだ。

 それなのに、アメリカはアフガニスタンに巨費を投じて8年間も戦いを続けている。そればかりか、アフガニスタンに平和が訪れる日(ずっと先だろうが)までに増派する予定の米兵10万人以上の努力と費用を、カルザイの功績にしてやろうとしている。

 もっとも、私は投票箱が半分埋まっているとき「半分もある」と考えるタイプ。つまり、楽観論者だ。アメリカ的な価値観を理解せず、アメリカ人の若者が命を捨てて戦っていることに感謝さえしない連中のために戦い続ける意味があるのか、という意見があるのは知っている。だが私に言わせれば、今回の選挙にはプラス面もある。やや無理があるかもしれないが、この選挙結果がもたらす5つのメリットを挙げてみた。

■タリバン支配から抜け出す一歩

 偽の投票所が何百カ所も設置され、カルザイの票が多数捏造されたという報道は、アフガニスタンの「進歩」を裏付けるものだ。もちろん疑惑が事実なら、公正な選挙とは言いがたい。だがそれでも、タリバン政権の強権支配に比べれば大きな一歩だし、イランのような近隣の民主主義「先進国」の選挙と比べれば五十歩百歩まできたともいえる。

 そればかりか、アフガニスタンの現状は、不正が行われるだろうと予想していた皮肉屋たち(私を含む)をいい気分にしてくれた。
世界経済は不況から脱しそうだし、バラク・オバマ大統領は狂信的な攻撃にも負けず医療保険改革を守ろうとしているし、あまのじゃくな私たちはこのところネタに事欠いていた。だから、アフガニスタンの選挙を成功だとこじつけられば、少しは鬱憤が晴れる。

■本当の友人を見極めるチャンス

 汚職、女性差別、アメリカの努力を否定する態度──それでもアメリカはこれまでカルザイを諦めなかった。しかし、今回の選挙で味わった不快感のおかげで、今度こそアフガニスタン指導層の本性に気づくはずだ。

 失敗を認めるのは醜態だが、それでもアメリカの政策担当者はアフパック(アフガニスタンとパキスタンを合わせた地域)へのさらなる投資と長期的関与を決める前に、目を見開いて現実を直視しなければならない。

■ふさわしい指導者を探すきっかけに

 アフガニスタンは強固な市民社会や社会正義に支えられた国とは言いがたい。それでも、この国のほんのわずかな民主主義(やその失敗による苦い後味)が、自由で公正な統治により熱心な反対派に活力を与えるかも、という希望は持ち続けていい。

 今回の選挙には、民主主義への取り組みにふさわしい人物を真剣に探すよう、アメリカや同盟国にはっぱをかける効果もあるかもしれない。そうした人物が見つかったら、資金を渡そう。カルザイがしてきたのと同じくらいアフガニスタンの政治体制をもてあそんでいるように聞こえるだろうが、目的を達成するためなら多少の犠牲はやむをえない場合もある。

■民主主義の国際基準が生まれる

 ますます楽観的に言えば、今回の選挙は後ろ暗い政権側が、民主主義という洗剤でうわべだけ身を清めようとした最新例といえる。これを機に、真の民主主義を実現するため法的拘束力のある国際基準をつくろうという動きが世界中で高まるかもしれない。たとえば、選挙のたびに国際的な選挙監視団を送り込めば、国民の利益につながるはずだ。

 私もアメリカ人として、できるかぎり選挙の監視をしてほしいと思う。共通の基準をもたなければ、国際社会に対してポーズを取るためにとりあえず投票箱を並べるだけ、という見せかけの民主国家を許してしまう。

 中国人やベネズエラ人、ロシア人、イラン人、そしてフロリダ州の住民にはありがたくない話だろうが、だからこそ基準を設ける意味があるというもの。

■オバマの医療保険改革の後押しに

 アフガニスタンの選挙結果を前向きに受け止めていい理由を挙げてきたが、納得できない人もいるだろう。そんな人はこの事実を思い出すといい。アメリカは医療保険改革で激しくもめているが、その行く末がどれほど悲惨でも、アフガニスタンやパキスタンほど悲惨な状態にはならないだろう、ということだ。

 共和党の必死の反対にもかかわらず、オバマは年内にこの法案を通過させ、重要な改革に着手するだろう。完全なる勝利ではないだろうが、アメリカがアフガニスタンで得られるだろう成果に比べれば、ノルマンディ上陸作戦に匹敵する成功に見える。

Reprinted with permission from David J. Rothkopf's blog, 08/09/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド4─6月期GDP、7.8%増 米関税の影響に

ワールド

安全保障巡り「首脳レベルの協議望む」=ウクライナ大

ワールド

ロ軍、ウクライナへの進軍加速 1カ月最大700平方

ワールド

カナダGDP、第2四半期は1.6%減 米関税措置で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中