最新記事

米外交

米中G2戦略の落とし穴

2009年8月3日(月)17時22分
ジョン・リー(米ハドソン研究所客員研究員)

 戦略主義派はこれに対し、力が増すにつれ中国政府はますます現在のアジアの地域秩序を維持したくなくなる、と警鐘を鳴らしている。

 中国の著名な戦略研究家約25人の最近の論文を100本調べているうち、あることを発見した。論文の5つに4つが、アジアにおけるアメリカの力と考えを出し抜くこと、影響力を弱めること、または取って代わることを主張しているのだ。中国にとってリベラルな秩序とは、アメリカがアジア地域で覇権を維持するためのもの。たとえ中国政府が現在の秩序から多大な恩恵を受けてきたとしても、必要な成長を達成したときにはないがしろにする恐れがある。

安全保障でも中国の言いなりに

 米政府の戦略主義派は中国の成長を妨げることはできないし、そうしたいとも思っていない。だが彼らは、特にアジアにおいて中国の戦略的な野望を封じ込めなければならないと主張する。

 つまりはこういうことだ。アメリカの同盟国である日本、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピン、シンガポール、インドネシア、そして台頭しつつあるインドによるアジア地域の秩序に中国を巻き込む。この力を敏感に感じ取っている中国は、アメリカ政府かアジアのいずれかとうまくやっていきたいと思っている。両方、ということはあり得ない。

 米中関係を「G2」にするという戦略が危険なのはこのためだ。戦略主義派たちは、高官レベルの対等な対話で安全保障や地域組織といった経済以外の分野について論じれば、米政府は中国の言いなりになりかねない、と恐れている。見返りはほとんどないにもかかわらずだ。

 すでにアジアにおけるアメリカの同盟国、実際にはビルマ(ミャンマー)と北朝鮮、カンボジアとラオスを除くアジア地域全体が、中国に対するアメリカの影響力はいとも簡単に吹き飛んでしまうのではないかと恐れている。

 機能主義派の主張が有利になるにつれ、隠れた敗者はアジアになる可能性が高まっている。アジア地域のほとんどの国は、現在のアメリカ主導の秩序が平和と安定の継続を保証すると考えている。米政府の機能主義派が好む「G2」的アプローチに飛びつけば、地域の平和と安定を危険にさらしかねない。

 残念なことに、経済問題が中心であるかぎり機能主義派の優位は変わらない。ワシントンとアジアの非機能主義派の人々ができることは、中国に対するアメリカの影響力が小さくなりすぎないよう祈ることぐらいだ。


Reprinted with permission from www.ForeignPolicy.com, 03/08/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中