最新記事

イラク

マリキの訪米を喜ばない政敵たち

2009年7月22日(水)19時35分
ラリー・カプロウ(バグダッド支局)

 かなり危険だが多少安全になった新生イラクへの投資を働きかけること――これがマリキ訪米についてのイラク政府の公式な説明だ。マリキはイラク投資に関する会議をワシントンで開催すると発表するだろう。

 マリキは確かに国家投資委員会委員長を伴ってくるが、国防大臣、治安を担当する内務大臣も連れてくる。アメリカでの話し合いの大部分は、シーア派主導の政府と疎外されたスンニ派、クルド人勢力との摩擦についてでもあるからだ。これこそアメリカ人がもっとも懸念している問題で、摩擦が再び起これば治安が悪化しかねない。訪米について聞かれたロバート・ギブス米大統領報道官は、22日のマリキ・オバマ会談ではイラク国内の「政治問題」が焦点になるとコメントしている。

 マリキの政府が巨大化するにつれ、政敵たちはアメリカの助けに依存するようになっており、彼らはマリキが妥協を促すアメリカを阻止するのではないかと疑っている。「マリキは(シーア派とスンニ派の)和解に向けて何もしていない」と、スンニ派の連邦議会議員サリー・ムトラクは言う。「アメリカの役割を無視して、治安の改善を自分の手柄にしようとしている」

マリキの力を弱めてほしいクルド人

 マリキはスンニ派に譲歩したと言うだろうが、彼が関係を深めているのは、何十年とシーア派を迫害してきたバース党につながりがある人たち。彼らは過激派だとして拘束された多くのスンニ派住民の刑務所からの釈放を求め、バース党活動禁止の解除も求めかねない。

 もっとも戦々恐々としているのはクルド人だろう。彼らこそアメリカともっとも近い関係を保ってきた。イラク北部地域の自治拡大への野心は、アメリカに訓練されたイラク軍によって抑え込まれている。イラク政府とクルド人勢力の緊張関係は続いていて、流血の惨事に発展しかけたこともある。「問題は深刻になりつつある」と、クルド人の連邦議会議員アブデル・カリク・ザンガナは言う。ザンガナはアメリカがマリキの力を削ぐことを望んでいる。

 こうしたすべてを考えると、具体的な成果がなくても訪米をしたことだけでマリキの評価があがる可能性もある。オバマ大統領との写真撮影で、マリキは近隣のイランやシリアに自分たちだけで生き残れることを見せつけるだろう。エネルギーや住宅、農業への投資がイラクに歓迎されるかどうか心配するアメリカ人投資家への広告にもなる。これこそが、マリキがアメリカ人戦没者に追悼の意を示す最大の狙いなのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中