最新記事

米外交

バイデン「イラン攻撃OK」で空騒ぎ

米副大統領がイスラエルのイラン攻撃に「青信号」? 無駄な騒ぎを生んだだけで、対イラン政策の手詰まり感は変わらない

2009年7月10日(金)17時44分
スティーブン・ウォルト(米ハーバード大学ケネディ政治学大学院教授)

口は災いの元 失言癖で有名なバイデン(右) Larry Downing-Reuters

 ジョー・バイデン米副大統領が、イスラエルのイラン攻撃に「青信号」を出したとされる発言が大きな騒ぎを起こしている。バイデンは7月5日、米ABCテレビの報道番組でアメリカは「いかなる主権国家に対しても、彼らに何ができて何ができないかを指図」することはできないと語った。

 この発言をバイデンらしい失言とみる者もいる。一方、これはイランに圧力をかけるのが狙いで、米政権はイランの大統領戦後の混乱以降、硬化していると解釈する見方もある。そして第3の見方は、イスラエルが行動を起こせば「報い」を招くだろうと暗に警告しているというものだ。

 しかし、これらの推測はすべて重要な点を見逃している。まずバイデンは自明の理を述べたにすぎない──イスラエルは主権国家であり、イラン攻撃がどれだけ馬鹿げた行為でもアメリカがそれを力づくで止めることはできない。国際政治は「自立システム」で成り立っており、お互いの行動をコントロールできない状況のなかでは、すべての国家は最終的に自国の資源と戦略に頼るしかないと認めただけだ。

 第2に、アメリカがイスラエルに「青信号」を出すかどうかは重要ではない。いくらイラン攻撃に反対しようと、いざ攻撃が始まればアメリカも非難を免れることはできない。アメリカはイスラエルの主要な同盟国で、攻撃に使用されるであろう最新兵器の供給元だ。

イスラエルとアメリカは一心同体

 バラク・オバマ米大統領とイスラエルの現ネタニヤフ政権との間には意見の隔たりもある。それでもオバマは歴代大統領と同じく、両国の特別な関係を繰り返し強調している。6月のカイロでの演説でも、イスラエルとアメリカの結束は「断ち切れない」と語った。イランを含む多くの国が、アメリカとイスラエルは一心同体だと考えるのも当然だ。

 従って、イスラエルが国際的に好ましくない行動を起こせば、アメリカのイメージに傷がつく。入植地の建設、レバノン空爆、ガザ封鎖などでもそうだった。たとえアメリカが珍しくそうした行動に反対したとしても、やはり結果は変わらない。

 もしアメリカが真にイランへの武力行使に反対の姿勢をとるのなら、米政府はその意思を明確に示す必要がある。副大統領が口を滑らせたときだけでなく、繰り返し何度も反対の意向を明示すべきだ。

 残念ながら、もしイスラエルが攻撃を開始した場合、多くの国々はアメリカの支持を受けたものと考えるだろう。これまでアメリカの評論家や元政府高官はイランへの強硬姿勢を求めてきたし、現政権にも明らかな強硬派がいる。

武力行使という脅しは止めるべき

 イラン攻撃が現実のものとなった場合、自らの考えに関係なく米政府が非難されるのは必至だろう。イスラエル政府との密接なつながりは明らかであり、イランの核計画もこれまで問題視してきた。

 イランに核兵器を諦めるよう説得する唯一の手段は、武力行使という脅しを交渉のテーブルから外すことだ。その上で、イランの指導者たちが国際機関の厳格な査察を受け入れて開発を断念するか見極めるべきだ。

 この方法がうまくいかなければ、イスラエルとアメリカは抑止力という戦略へ後退することになる。しかしイランの選挙後の弾圧で分かったのは、この国の指導者は不合理でも自滅を望んでいるわけでもないということだ。むしろ彼らは、権力に必死でしがみつくありふれた権力者たちだ。こうした相手には抑止力が有効だろう。

 つまり状況は何も変わっていない。攻撃に踏み切ったとしても、イランの核計画は遅れこそすれ消滅はしない。逆に、核兵器保有という意志を強くしてしまうだけだ。イランの体制崩壊に手を貸そうとしても、政権の弱体化を招くより強硬派を勢いづかせることになるだろう。

 やはり現実的な選択肢は外交しかない。バイデンの不用意な発言で、状況が変わったなどということはない。


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 10/7/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド4─6月期GDP、7.8%増 米関税の影響に

ワールド

安全保障巡り「首脳レベルの協議望む」=ウクライナ大

ワールド

ロ軍、ウクライナへの進軍加速 1カ月最大700平方

ワールド

カナダGDP、第2四半期は1.6%減 米関税措置で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界がうらやむ国」ノルウェーがハマった落とし穴
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    自らの力で「筋肉の扉」を開くために――「なかやまき…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    「人類初のパンデミック」の謎がついに解明...1500年…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 10
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中