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盛り上がるイラン、沈黙するアメリカ

6月12日に迫ったイラン大統領選で改革派のムサビ元首相が一気に本命に躍り出たが、アメリカの期待通りの変化が訪れるとはかぎらない

2009年6月11日(木)17時23分
ローラ・ロゼン(政治ジャーナリスト)

変化を求めて ムサビ元首相への支持を訴えてテヘラン市内を行進するデモ隊(6月10日)  Morteza Nikoubazl-Reuters

 大統領選を6月12日に控えたイランでは大きな地殻変動が起きようとしているが、アメリカ政府は表立った発言を控えている。

 イランでは今週、1979年の革命以来最大規模のデモ行進が勃発。再選をめざすマフムード・アハマディネジャド大統領の強力な対抗馬であるミルホセイン・ムサビ元首相の支持者が100万人規模の「人間の輪」をつくるなど、強烈な映像が配信された。

 それでも、オバマ政権は沈黙を守っている。選挙の結果によってはアメリカを苦しめているイラン問題に光が差すだけに、下手な口出しをして変化に水を差すことだけは避けたいからだ。

 ムサビが勝ったとしても、アメリカのイランへの関与政策が一気に動き出すわけではないと、専門家はクギを刺す。イランの指導層の間の亀裂が深まったり、強硬派の復権や弾圧行為によって米イラン関係がいっそう硬直化する可能性もある。

 それでも、アハマディネジャドが敗れれば、イラン国民がさらなる自由化と西側と敵対しない政府を求めている証となり、欧米諸国にとって歓迎すべきサインであることは間違いない。

「どの候補者に勝ってほしいと発言しても、(米政府が)得るものは何もない」と、イラン問題に詳しいブルッキングズ研究所のスザンヌ・マロニーは言う。「結果は予想できないし、複雑な影響が出るかもしれない。改革派が勝利することで権力闘争に火がつき、イランが再び麻痺状態に陥るかもしれない」

流れを変えたテレビ討論会

 12日投票の大統領選には4人が出馬しているが、第1回投票で誰も過半数を取れなければ、19日に上位2人による決選投票が行われる。

 ここに来て情勢が一気に動いており、ムサビが第1回投票で当選を決めるとの予測もある。「間違いなく、何かが起きている」と、国立イラン・アメリカ・カウンシルのトリタ・パルシ会長は9日に語った。「大げさなことは言いたくないが、第1回投票で決着がつき、アハマディネジャドが敗れる可能性はある。2週間前には考えられなかった事態だ」

 アナリストに言わせれば、ターニングポイントは候補者によるイラン史上初のテレビ討論会だ。6月3日に始まった一連の討論会を見たイラン人は推定4000万人に達する。

 だが、注目すべき事件はほかにもあった。反アハマディネジャド派による大規模なデモや、テヘラン市内を縦断する「人間の鎖」。アハマディネジャドがムサビとの討論会の場で、ムサビの妻が博士号を不正取得したと糾弾した一件も話題になった。

 さらに9日には、元大統領のハシェミ・ラフサンジャニが、アハマディネジャドからの攻撃を封じ込めるため、最高指導者ハメネイに公正な選挙を求める書簡を送付。アハマディネジャドは以前から、ラフサンジャニ一族の不正を批判し、自身の再選を阻止する勢力をラフサンジャニが陰で操っていると訴えていた。

アハマディネジャドを侮るな

「(ラフサンジャニの書簡を)なりふり構わず再選を狙う無謀な候補からの非難に対する、自衛手段と考えるのは間違っているだろう」と、イースタン・イリノイ大学のメフディ・セマティ助教授は湾岸事情に関するメーリングリストで述べた。

 セマティはこうも書いた。「ラフサンジャニはイランの多くの人々が考えていることを代弁したまでだ。アハマディネジャドは革命後の30年間の歴史全体に事実上、異議を唱えている、と。なぜならアハマディネジャドはムサビ政権もラフサンジャニ政権もハタミ政権も、とことん腐敗していたと語ったのだから」

 テレビ討論会の主要なテーマになったのは外交ではなく経済だったが、セマティはフォーリン・ポリシー誌の取材に対しこう語った。「アハマディネジャドは無謀で冒険主義で無能で怒りっぽいと批判されているが、これにはいい面もある。なぜ彼の外交活動がイランを危機に陥れているのか、有権者にもよくわかるからだ」

「ラフサンジャニは書簡の中で、そうしたアハマディネジャドへの不信感をうまく利用した。この不信感は政界で広く共有されていると思う。アハマディネジャドのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)否定発言はイランの国家的威信や名声を傷つけたと多くの人が考えている」

 セマティによれば、もう一人の候補で、革命防衛隊の元司令官であるモフセン・レザイの選挙運動ビデオは「アハマディネジャドの流儀や能力、知性への痛烈な攻撃だった」という。

「レザイの言葉のなかで印象的だったのは、長い軍歴を通して戦争の恐ろしさを理解しており、戦争を避けるためにできる限りの手を打とうとしているという部分だった。あとは最高指導者の考え次第だと私は思う」。レザイは、タカ派有権者の票の一部をアハマディネジャドから奪うと見られている。

 ブルッキングズ研究所のマロニーは、革命防衛隊や農村部の貧困層、一部のイスラム保守派といった支持層に対するアハマディネジャドの訴求力を過小評価すべきでないと言う。また、現職としての強みもある。「彼は選挙管理委員会に影響力を及ぼせる」と、マロニーは言う。

「アハマディネジャドは(再選の)可能性を高めるようなばらまき政策も実施している。よく言われるような世間知らずではなく、とても世慣れた人物だ。巧みな弁舌で主要な支持層にうまく訴えかけている」

ハタミ時代の二の舞は避けたい

 マロニー以外のアメリカのイラン観測筋は、すでムサビの勝利を予想しているという。改革派の勝利によって政権内での権力闘争がさらに深刻化することも、だ。

「みんな不安と期待を胸にいだいている。ハタミ政権の二の舞はごめんだからだ」と、イラン系アメリカ人で中東の民主化を目指すNGO(非政府機関)でアドバイザーを務めるマリアム・メマルサデギは言う(97年の大統領選で予想外の勝利を収めた穏健派のモハマド・ハタミは当初、改革や自由化を推進したが、反対派の暗殺や学生運動の弾圧によって挫折した)。

 もっともハタミ政権下とは異なる点もある。「ハタミ時代と違い、人々は(ムサビという)個人を強く支持しているわけではない。大事なのは自分たちの要求だ」

 では人々は何を求めているのか。「自由化やもっと前向き志向の政府、人権......人々はあらゆるものを求めている。だが今までのような制度では無理だ。人々のデモ参加と選挙によって体制内部の亀裂が深まれば、真の変化が起こるかもしれない」

 とはいえ、亀裂のために政治システムが機能しなくなる恐れもあると、パルシは指摘する。イランの指導層は「分裂が進むあまり、亀裂の修復に追われてアメリカとの交渉に手が回らないかもしれない」と、彼は言う。

 アハマディネジャド時代に戻れない状況を作り出してしまったのは、選挙戦それ自体かもしれない。「強硬派にとって、いったん瓶から出てしまった精霊を元に戻すのは非常に困難だ」と、米政府内のイラン問題専門家(匿名を希望)は9日、語った。

「アハマディネジャドは身を隠すための穴を深く掘りすぎて、はい出すことができなくなったのは明らかだ」と、米国家安全保障会議(NSC)の元スタッフで現在はコロンビア大学で教鞭を採るイラン専門家のゲーリー・シックは言う。

「ラフサンジャニの手紙はイラン史上例を見ないものだ。どういう結果を招くかは不明だが、革命におけるターニングポイントになるとは思う。指導者の役割について核心を突くものだからだ」


Reprinted with permission from The Cable, 11/06/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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