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アメリカが豚インフルエンザに強い5つの理由

恐れるべきはパニックに陥ること。アメリカではメキシコほど感染が広がらないとして、米当局は平静を呼びかけている

2009年4月28日(火)17時34分
ケイト・デイリー

メキシコシティーのベニート・フアレス国際空港では兵士を配備して厳戒態勢に当たっている(4月27日)Felipe Leon-Reuters

 アメリカは、この「豚」をそれほど恐れる必要があるのか。
 
 H1N1型ウィルスによる豚インフルエンザはメキシコで混乱を引き起こし、これまでに150人近くが死亡した。だがこれまでアメリカで豚インフルエンザと診断された人は、44人に過ぎない。この大半がメキシコ渡航中に感染している。
 
 米当局は現時点では、アメリカ国内で人から人へと豚インフルエンザが感染しているとは考えていない。アメリカがメキシコよりもこの恐怖をうまく切り抜けると考える理由は他にもある。その理由を5つ上げてみよう。

1. アメリカは二次感染国だ

 メキシコの医療当局者はゼロの状態から対処する必要があった。国内の複数の場所でインフルエンザによる異常な死亡例が発生してから、ようやく豚インフルエンザを特定した。

 だが今、くしゃみが止まらずにアメリカの緊急外来を訪れる人に対しては、あらかじめ豚インフルエンザ感染の可能性を疑う。つまり、アメリカでは初期の段階で診断、治療、隔離できる可能性が高まるということだ。

 病院も先手を打ち始めている。検査方法から使い捨て手袋をどれくらい準備すべきかまで、すでに全米の病院関係者がありとあらゆる対策を協議中だ。

「たとえ結果的に散発的な感染が確認されるだけだとしても、病院のスタッフにとっては有意義な経験になる」と、オハイオ州にあるクリーブランド・クリニックのトーマス・トールマンは言う。「感染がさらに拡大するとしても、アメリカにはメキシコという先例がある。メキシコから国内に入ることは予見できた」
 
2.アメリカは「標的」になることに慣れている

 9・11テロ後に行われた対テロ対策のおかげで、アメリカの病院はパンデミック(世界的大流行)にうまく対処できる準備が出来ている。「危機管理は史上最高レベルだ」とアイオワ大学のグレゴリー・グレイ新興感染症センター長は言う。「私たちはインフルエンザだけでなく、あらゆる緊急事態に備えてきた」。
 この5年間ほど続く鳥インフルエンザの脅威も、新型インフルエンザへの備えを後押ししている。

3.アメリカの準備は万全だ

 メキシコは感染拡大を食い止めるためにあらゆる措置を講じたが、アメリカができることははるかに多い。「アメリカにははるかに多くの資源がある。病院や医者の数、緊急救命の医療技術、診断能力の高さ。このすべてでメキシコを上回っている」と、ノースカロライナ大学病院の疫学部門責任者デービッド・ウェーバーは言う。

 ここでいう資源には、治療薬も含まれる。タミフルやリレンザ、2次的な細菌感染に効く抗生物質などの備えも十分だ(1918年に大流行したスペイン風邪では、死亡者の約半数が細菌感染による肺炎で亡くなった)。

4.アメリカの状況はそれほど深刻ではない

 米疾病対策センター(CDC)は、国内で最悪のケースが出ていないからといって安心しないよう、注意を喚起している。だがもし、アメリカでは事態が悪化しないとしたら、アメリカ人の免疫力について新たな発見があるかもしれない。「同じウイルスなのにアメリカとメキシコで異なる症状を示すとしたら、それは被感染者に何かの違いがある可能性がある」とバージニア・コモンウェルス大学のリチャード・ウェンゼル内科学部長は言う。

 もしかするとアメリカ人の体は、他のワクチンや以前かかった病気によって免疫力が高いのかもしれない。メキシコの汚染レベルが高いことも、人々の感染への抵抗力を弱めている可能性もある。結論を出すにはまだ早すぎるが、数週間もすれば、地理的・社会学的な要因によってアメリカ人は感染しにくいということが証明されるかもしれない。

5.アメリカ人は怯えている

 WHO(世界保健機関)は4月27日、豚インフルエンザの警戒レベルを「フェーズ4」に引き上げた(人から人への感染が地域レベルで起きている状態)。つまり、パンデミックが起きる危機が迫りつつあるということだ。

 米厚生省は公衆衛生に関する緊急事態を宣言。何だか恐ろしげな事態だが、すべて豚インフルエンザを食い止めるための措置だ。「緊急事態を宣言したのは、深刻な事態であるという認識を示すためだ。われわれは事態を深刻に受け止め、積極的に動いている」とCDCのリチャード・ベッサー所長代行は言う。「宣言を出すもう1つの意義は、われわれが権限を得られることだ。必要な物資を動かしたり、薬を調達することが可能になった」

 鼻水が止まらずに青くなっている人々の運命は? 彼らはこれまでよりも手洗いや安静を心がけるだろうし、検査や治療を受ける可能性も高まる。こういった措置のすべてが、豚インフルエンザなど感染症の拡大を防ぐはずだ。

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