最新記事

医療

【写真特集】癌と闘う両親にカメラを向けて

最愛の両親の最期の日々を写し撮ったカメラマンの「魂」の記録

2015年6月25日(木)20時00分
ナンシー・ボロウィック

34年目の結婚記念日に寝室で抱き合う父ハウイーと母ローレル。2人が同時に末期癌と診断されるとは、以前なら想像もつかなかった(13年3月)

 2013年、私の両親は癌と闘っていた。母は20年近く乳癌の治療を受けていたが、そこへ12年末、父も膵臓癌と診断された。末期のステージ4だった。

 迫りくる死の恐怖に負けず、きつい痛みと苦しい抗癌剤治療に耐え抜く2人。私は両親の勇敢な姿を写真で残そうと思った。夫婦として冗談を言い合う日々から、患者と介護者として互いをいたわり合う様子まで、すべてをカメラに収めた。私の心の中にあったのは、両親を不憫に思う気持ちだけではなく、彼らに対する深い尊敬の念だ。

 死について語りたい人なんかいないだろう。誰もがいつかは自分も死ぬのだと分かっていても、その日が近づくまであえて考えないようにしている。でも私たち家族は語らなくてはならなかった。死ぬという意味を理解し、その日に備える必要があった。そしてそうすることで、生きるということの本当の意味を悟った。

 癌は私たち家族に試練を与えたが、それは一緒に過ごす時間の大切さを教えてくれる贈り物でもあった。闘病生活の中で私たち家族は、1秒たりとも時間を無駄にしたことはない。苦しい時も幸せな時も、笑いがあふれる瞬間も涙があふれる瞬間も、すべての写真が家族の歴史となった。

 父は癌を告知されてからちょうど1年後、13年12月にこの世を去った。母は34年間共に生きてきた夫を失った悲しみに浸る一方で、日に日に弱りゆく自分の体とも向き合わなければならなかった。私たち子供も同じだった。父を亡くした悲しみがまだ癒えないなか、今度は母の最期に備えるという現実が待っていた。

 私は父の死後も癌にあらがい続ける、たくましい母の写真を撮り続けた。母は自分という人間が癌患者としてだけ語られることを嫌がった。癌は自分の人生のほんの一部であり、克服すべき1つの状況にすぎないと、彼女は考えていた。

 父の死から1周忌を迎える前日、母は息を引き取った。

 癌は病に侵されている本人だけでなく、家族全員の闘いとなる。私たちの置かれた状況は特異だったかもしれないが、そこには普遍的な側面もあると思う。私たちのストーリーが、いま闘病生活を送っている人たち、その家族や友人らを少しでも勇気づけるものであってほしい。

cancer02.jpg

13年2月のある日の夕方、抗癌剤の副作用で抜けてくる前にと、父は母の髪を剃った


cancer03.jpg

2人とも腫瘍が小さくなっていると伝える担当医からの電話を受けて(13年3月)


cancer04.jpg

病院で抗癌剤治療を受ける2人。父はこの椅子を「彼と彼女のチェア」と呼んだ(13年1月)


cancer05.jpg

娘の結婚式でユダヤの伝統として椅子に乗せられ持ち上げられる2人(13年10月)


cancer06.jpg

父が残した遺書の封筒には「私が死んでから、でも葬儀の前に開けなさい」と書かれていた


cancer07.jpg

母に支えられながら病院の廊下を歩く父(13年11月)


cancer08.jpg

何事にも計画を立てる性格だった父は自分の葬儀についても野球帽とアメフトのユニホームを着せてくれと指示を残していた(13年12月)


cancer09.jpg

息子マシューと娘ジェシカの前で宝石箱を開けながら、1つ1つのジュエリーにまつわる思い出を語る母


cancer10.jpg

毎年春に世話になっていた庭師が父の訃報を聞いて花籠を贈ってくれた(14年5月)


cancer11.jpg

呼吸が浅くなっていく母を見守る家族(14年12月)


cancer12.jpg

母が亡くなった後のベッドはそのまま時間が止まったかのよう。毛布が無造作にめくられたままで、今にも彼女が戻ってきそうだ

Photographs by Nancy Borowick

<本誌2015年3月31日号掲載>

「Picture Power」のバックナンバーはこちら

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米軍、太平洋でも「麻薬船」攻撃 トランプ氏はベネズ

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承

ビジネス

南アCPI、9月は前年比+3.4%に小幅加速 予想

ビジネス

豪フォーテスキュー、第1四半期の鉄鉱石出荷拡大 通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中