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アメリカ株

ダウ最高値更新は水増しされている

株高は米企業の強さのしるしで嬉しい半面、社会全体の底上げへの道はまだ見えない

2013年3月26日(火)14時10分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

絶好調 過熱を懸念する必要はまだないが Brendan McDermid-Reuters

 ダウ工業株30種平均は先週、金融危機後の損失を回復し、1万4397ドルの過去最高値を付けた。

 住宅バブルがはじける直前だった07年10月の前回のピーク時と比べると、企業の実態は確かに大きく改善した。だが一方、繁栄を皆で分かち合えるような真の高値更新にはまだなっていないことも忘れてはならない。

 専門家は市場の過熱ぶりをあざ笑っている。高値更新はインフレを考慮に入れない虚構だという。実際にはモノの値段は少しずつ上がっており、今のドルは6年前のドルより価値が低い。従って1万4397ドルにも07年ほどの価値はない。
「物価調整後の最高値を更新するには、さらに8%上がる必要がある」と、証券会社MKMパートナーズのエコノミスト、マイケル・ダーダは言う。

 また今の株価はFRB(米連邦準備理事会)の量的緩和策によって人為的に水増しされていると、懐疑派は言う。FRBは金利を低く抑えると同時に大量の資金を市場に供給。超低金利下では債券や預金は儲からないので、ダブついた資金が株に向かっただけだ、という。

 金融危機後マイナス成長に陥ったアメリカ経済は、近年また成長を始めている。だがその内訳を見ると、成長しているのは企業とその株の所有者で、労働者のパイは小さくなっている。

 そもそもダウという株価指標自体が欠陥だらけ、というのはよく聞く話。構成銘柄はたった30社で、企業の大小にかかわらず株価の単純平均を出す。経済の実態を反映できるわけがない。

輸出主導モデルへの転換

 どれももっともな話だ。だが、最高値を支持する材料もある。市場の動きをより広くより正確に反映するスタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数も、最高値まであと少しだ。 低金利が投資家を株式市場に追いやっている面もあるかもしれないが、株価はお買い得な水準にある。ロイター通信のレア・シュナー記者によれば、ダウ銘柄の株価収益率(PER)は平均で14・5倍にすぎない。バブルには程遠く、07年のPERより低いというのだ。

 またアメリカ経済全体の現状の反映ではないとしても、ダウが教えてくれることもある。内需が弱くて成長の大半を国外に頼らざるを得ない今の時代に、アメリカ企業がどれだけ利益を稼げるか、ということだ。

 アメリカの株価はもはやアメリカ経済の反映ではなく、世界経済の反映だ。アメリカ企業が国外に製品やサービスを売り込む力、輸出主導の成長に適応する力の結果なのだ。

 その点アメリカ企業は近年、素晴らしい成績を残している。月間の輸出額は09年4月に底を打ち、その後5年で50%近く増加した。S&P500社の約半数を対象に調べたところ、11年の売上高の46%は国外だった。

 より大きな企業が集中するダウ構成銘柄では、マクドナルドからマイクロソフトまで売り上げの70〜80%が国外という企業も多い。ダウ急伸の大きな理由は、世界の消費者がアメリカ企業を支持してくれているから。これは、歓迎すべきニュースだ。

 だが、好業績の理由の1つが、経営幹部が労働者の取り分を搾り取っているせいだ、というならいただけない。

 企業収益はこの4年で急成長したが給与は違う、とニューヨーク・タイムズ紙は指摘した。それによると昨年7〜9月期、企業収益は経済全体の14・2%と戦後最高の割合に達したが、個人所得は61・7%で66年以来で最低に近い水準だった。

 株価にはいいが、経済全体にとっては喜べないトレンドだ。

[2013年3月19日号掲載]

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