最新記事

原発

計画性ゼロ? アメリカの核廃棄物処理

アメリカ政府が初めて使用済み核燃料に関する政策的指針を発表したが、長期的な貯蔵施設は候補地さえ決まっていない

2012年3月26日(月)15時05分
ダニエル・ストーン(ワシントン)

隠れたリスク アメリカでは今のところ、それぞれの原発の敷地内で使用済み核燃料が保管されている(カリフォルニア州のサンオノフレ原子力発電所) Reuters

 バラク・オバマ大統領が生まれるずっと以前から、アメリカ政府には核廃棄物、つまり原子力発電所から出る使用済み核燃料の長期的な処理に関するきちんとした方針がなかった。

 スペインのように地中に埋めている国もあれば、フランスのように再処理によって可能な限り核燃料を活用しようという国もある。だがアメリカは、問題を先送りしているだけだ。

 米政府の核廃棄物処理に関する有識者委員会は1月下旬、最終報告書の中で政府のいいかげんな姿勢を批判した。「この国が核廃棄物問題に真剣に取り組んでこなかったことが、悪影響と多大なコストをもたらすことは明らかだ」

 米政府は今のところ、核廃棄物を厳しい警備を敷いた貯蔵施設1カ所に集めて保管するという政策を取っていない。アメリカで現在稼働している原子炉は104基あるが、使用済み核燃料はそれぞれの原発の敷地で「一時保管」されている。

凍結された核廃棄物貯蔵施設

 しかし、このシステムには問題がある。高レベル放射性廃棄物を保管している原発の8%が、警備上の基準を満たしていないのだ。

 今回の報告書で、米政府はようやく核廃棄物処理に関する指針を示したことになる。報告書では核廃棄物の管理のみを行う政府機関の創設や核廃棄物輸送の効率化が提言されたほか、原発敷地内での保管に対して地元の反対がある場合は、地元住民が連邦政府から補償を受けていないケースに限って保管をやめることも提言されている。

 だが、この報告書で触れられていない大きな問題が1つある。

 ネバダ州ユッカマウンテンの核廃棄物貯蔵施設計画だ。委員会は貯蔵施設の立地について判断を避けるよう要請されていた。

 この手の施設をめぐる決定は、地元政治の影響を受けることが少なくない。09年にオバマ大統領は、ユッカマウンテンでの貯蔵計画を事実上、凍結した。この決定の背後には、ネバダ州選出のハリー・リード民主党上院院内総務からの圧力があったといわれている。

 とはいえ、ユッカマウンテンに触れずにアメリカの核廃棄物問題を論じるのは建設的とは言い難い。ほかにこれといった貯蔵施設の候補地がないからだ。

使用済み核燃料の再処理で解決?

 一方で有識者委員会は、政府の原発監督機関である原子力規制委員会(NRC)と共に、使用済み核燃料の再処理という選択肢も検討した。確かに再処理をすれば最終的な廃棄物の量は少なくなる。

 しかし再処理が問題解決の決め手になるかといえば、そうでもなさそうだ。ワシントンに本拠を置く科学者団体「憂慮する科学者同盟」は、再処理は廃棄物の危険な蓄積を先送りするにすぎないと指摘している。

 核廃棄物処理に関する長期的なプランが定まっていないのは、カナダや日本も同じだ。だがスウェーデンやロシア、イギリスのように、厳重に警備された貯蔵施設を20〜30年以内に稼働させるという計画を立てている国は多い。

 この先、アメリカの議会と政府が貯蔵計画の策定にこぎ着けたとしても、取り組みが遅れたことのツケは大きいだろう。報告書にはこう書かれている。「現在利用可能な、もしくは合理的に見込める原子炉や核燃料サイクルの技術的発展において、わが国がこれから少なくとも数十年間、直面することになる廃棄物管理のハードルを下げられるようなものは存在しない」

 全米各地に核物質が保管されているという事実に、アメリカ人は慣れていかなければならないのかもしれない。

[2012年2月15日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に

ワールド

ロシアの石油輸出収入、10月も減少=IEA

ビジネス

アングル:AI相場で広がる物色、日本勢に追い風 日

ワールド

中国外務省、高市首相に「悪質な」発言の撤回要求
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中