最新記事

アメリカ社会

反ウォール街デモを「予見」していた新刊

ネットメディアの「女王」、アリアナ・ハフィントンがつづった警鐘と希望の書がついに邦訳

2011年10月24日(月)18時42分

崖っぷち アメリカの第三世界化を食い止めるには、自ら声を上げるべきだとハフィントンは言う(ニューヨークの反格差社会デモ、10月17日) Shannon Stapleton-Reuters

「ウォール街を占拠せよ!」。広がる一方の経済格差、改善しない雇用情勢。そんな状況のなかで噴き出した反格差社会デモは、発生から2カ月目に突入した。ニューヨークを震源地として世界80カ国以上に飛び火し、勢いが衰える気配はなお見えない。

 この混乱を1年以上前に予見していたともいえる本の邦訳が、このほど出版された。アリアナ・ハフィントンが書いた『誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に墜ちる日』(森田浩之訳、阪急コミュニケーションズ刊)である。急成長を遂げたネットメディア「ハフィントン・ポスト」の編集責任者を務める彼女は、アメリカは「第三世界」に転落する崖っぷちにいると、強烈な警告を発している。

 ハフィントンのいう第三世界とは、富める者とそれ以外の国民しかいない国、すなわち中流層が消え去った国だ。

「アメリカの中流層は、かつてのリーマン・ブラザーズと同じ道を歩もうとしている」と、彼女は書いている。中流層はアメリカを支える「背骨」のような存在だ。ところが、拡大するばかりの社会格差と、とどまるところを知らない政財界の癒着によって、中流という階級そのものがアメリカから消えようとしているという。

 だから声をあげるべきだと、「ネットメディアの女王」の異名をとるハフィントンは本書に書いた。その声は今、世界を覆う空前絶後のデモという形で現実のものになった。しかし、彼女のメッセージはそれだけではない。本当の解決策をもたらせるのは私たちの指導者ではなく、指導者を動かす私たちのはずなのだ......。

 アメリカと世界の現状に警鐘を鳴らし、同時に新たな可能性を見いだそうとする新刊の核心部分を抜粋で紹介する。

* * * * *

「第三世界アメリカ」

 ざらりとした嫌な響きの言葉だ。アメリカ人がこの国について抱いている「地球上で最も偉大な国」というイメージの対極にある。アメリカは最も豊かで、最も力強い国ではなかったか。最も寛容で、最も気高い国ではないのか。

 だとすれば、「第三世界アメリカ」という言葉は何を意味するのだろう。

 私にとってこの言葉は警告だ。訪れてはならない未来の姿だ。このフレーズは「アメリカン・ドリーム(アメリカの夢)」の裏面を示している。私たち自身がつくり出す「アメリカン・ナイトメア(アメリカの悪夢)」だ。

 いま軌道を修正しなければ、この国の輝かしい歴史に反して、アメリカは本当に第三世界の国になりかねない。

 そこには階級が二つしかない。富める者とその他大勢だ。歴史に取り残された場所。外敵ではなく、国内企業の強欲と政治指導者の無視に蹂躙された場所。それが第三世界だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

「ECB利下げ開始確実」とポルトガル中銀総裁、6月

ビジネス

ECBは利下げ急がず、6月以降は慎重に=ラトビア中

ビジネス

英中銀、利下げ待つべき 物価圧力の緩和確認まで=グ

ビジネス

米新規失業保険申請、1万件減の22.2万件 労働市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中