最新記事

米軍事

リビア空爆はオバマの戦争だ

演説では「非暴力的手段」「国連決議」を強調しても、これは「アメリカが始めた戦争」に他ならない

2011年3月30日(水)16時35分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

口実探し 「リビア国民の保護」は名目に過ぎない Pete Souza-White House

 それはまるで矛盾という名の地雷原を慎重に歩いているような物言いだった。バラク・オバマ米大統領が3月28日に、リビア軍事介入への国民の理解を求めようとワシントンで行った演説のことだ。
 
 オバマは、アメリカの重大な戦略的権益が何ひとつ危機にさらされていないなかで踏み切ったリビア空爆を正当化する道を探していた。しかし、これが「戦争」であることは疑いようもない事実。ある国の軍が国境を越えて他国に侵入し、ミサイルを撃ち込んだり爆弾を落とすという行為が戦争と呼ばれないのは、ジョージ・オーウェルが描いた全体主義世界くらいのものだ。

 現在、リビアに対して行われているのは人道目的の戦争であり、それは本質的には間違っていない。問題なのは、オバマがこの軍事作戦の根拠について明確に説明しないこと。そして彼自身、その曖昧さを自覚している様子が見て取れることだ。

 オバマが演説で述べた攻撃の理由は、ほとんどすべてが先制措置的なものだった。反体制派が拠点とするリビア東部ベンガジで起きる「かもしれない」大量殺戮を防ぎ、リビアの混乱が今後アラブ世界に波及する「可能性」を断ち、アメリカの名声が傷付けられることを「未然に」防ぐためだと説明した。それはそうだろう。もしアメリカの安全保障が脅かされているのであれば、今回のように手間隙はかけず攻撃していたはずだ。

 私がオバマの演説で特に異議を唱えたい点は、アメリカは「非暴力的手段」のみによってカダフィ政権打倒を追求すると嘘をついたこと、そして「軍事作戦の目的を政権打倒にまで広げるのは誤りだ」と述べた部分だ。
 
 この点については、3月28日付けのニューヨーク・タイムズ紙がこう指摘している。


 オバマはNATO(北大西洋条約機構)主導の対リビア軍事作戦におけるアメリカの役割を限定的なものだと語った。だが米軍は、リビア軍がカダフィ大佐に反旗を翻すよう広範囲に渡って空爆の勢力を拡大している。


CIAが秘密工作を行う可能性も

 オバマが演説で何を語ろうが、アメリカがリビアの政権転覆を狙って「軍事力を行使している」ことはまぎれもない事実だ。さらに、オバマが慎重に選んだ「非暴力的手段」という言葉は、CIA(米中央情報局)が秘密工作や無人機攻撃を行う余地さえ残している。

 オバマがこのような「間違った」演説を行ったことは驚きではない。指導者に嘘はつきものだ。それにオバマは「リビア国民の保護」という目的で対リビア武力行使を容認した国連決議に従っている振りをしなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

ECB、年内に複数回利下げの公算=ベルギー中銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中