最新記事

アメリカ政治

オバマ温暖化対策に巻き返しはあるか

温暖化対策法案が7月に頓挫してから環境保護派の間にさえ諦めムードが広がっているが

2010年9月1日(水)18時26分
ダニエル・ストーン(ワシントン支局)

猛暑をよそに この夏はワシントンも熱波に襲われた Larry Downing-Reuters

 米上院は7月、温室効果ガスの排出を制限する包括的なエネルギー・温暖化対策法案の成立を断念した。環境保護推進派にとっては大きな敗北だ。

 連邦議会には過去数十年間で最も温暖化防止に理解のある議員がそろっており、ホワイトハウスにはバラク・オバマ大統領という強力な援軍がいる。さらに、メキシコ湾での原油流出事故と原油価格の高騰という援護射撃もあったのだが、温暖化対策はついに大きな一線を越えられなかった。

 あれから数週間、環境保護派はこの失敗を反省し、敗因を探ろうとしている。

 その答えに意外性はない。共和党の現職議員と中間選挙の立候補予定者の中には、地球温暖化に懐疑的だったり、政府が行動を起こすのに必要な科学的結論が出ていないとして温暖化の存在を露骨に否定してきた人々が驚くほど大勢いる。彼らの声高な主張と、石油会社やガス会社、電力会社が5億1400万ドルを投じて展開してきたロビー活動のせいで、共和党は民主党が夏の間に可決しようと目論んでいた包括的なエネルギー法案を頓挫させることができた。

 包括的な対策を実現する大きなチャンスを逃したことは、環境保護派もよく理解している。「現実的になろう。今後は瑣末な法案の寄せ集めくらいしか実現できないだろうし、それでさえ疑わしい」と、ワシントンで活動する環境保護団体の代表は語った(諦めムードであることを知られたくないため匿名を希望)。

 彼らの怒りの矛先が向かうのは、温暖化防止の論議に加わろうとさえしなかった共和党議員だけではない。自らが主導して具体的なビジョンを示すことなく、民主党上院議員の指導層の判断に任せていたオバマ大統領も、激しい非難にさらされている。

環境保護局の排出規制を守れるか

 もっとも、アメリカの温暖化対策をめぐる議論がこれで終わるわけではない。議会が何もしない場合には、ホワイトハウスの対応に注目(と批判)が集まるだろう。

 ホワイトハウスの片腕である環境保護局(EPA)は、発電所やエネルギー開発企業に対する温室効果ガスの排出規制を来年1月にも始めたい考えだ(EPAは2007年に、温室効果ガスを「大気汚染物質」として規制する義務があるとの最高裁判決を受けている)。

 共和党の上院議員らは今年6月、EPAの温室効果ガス規制を差し止める決議案を提出した。この決議案は上院で否決されたが、彼らが今後再びそうした動きに出る可能性は高い。だが、ホワイトハウス高官はニューズウィークに対して、温室効果ガス削減に向けたEPAの権限を制限する動きがあれば、オバマは必ず拒否権を発動すると明言した。

 仮に上院の3分の2が決議案差し止めに賛成した場合には大統領の拒否権は無効になるが、そんな事態にならない限り、EPAは温室効果ガス規制を進めることができる。

 一方、温暖化対策の法制化に、いまだに期待をつないでいる団体もある。「環境保護の法制化に関する墓に、最終的に碑銘が彫られたとは思わない」と、環境保護団体ブルーグリーン・アライアンスのデービッド・フォスター代表は言う。

 それは、わずか1インチづつ前進するような小さな法案をいくつも段階的に積み上げるアプローチになるかもしれない。だが、中間選挙で議会の過半数を失いかねない民主党は、従来とは違った戦略を取らざるをえない。共和党があらゆる温暖化対策に反対し続ける以上、最終的な決着をつけるのは難しいが、それこそが答えなのだろう。「科学と環境保護団体は、共和党に直接アピールする必要があるのかもしれない」と、超党派政策センターの全米エネルギー政策委員会のストラテジスト、ポール・ブレッドソーは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中