最新記事

アルコール

地ビール男爵に乾杯!

「高品質のアメリカ産ビール」を実現した小さな醸造業者の底力

2010年7月9日(金)13時02分
ジョシュ・ハイアット

 ジム・クックは、小さな会社が大会社に挑戦する話が大好きだ。輸入チーズに対抗するアルチザン(職人技)チーズ、大手酒造メーカーを挑発する酒造家、ビール業界の巨人を本格的な味と巧みなマーケティングで押しのける地ビール醸造業者。

 最後の話は自分のことだ。クックは84年にボストン・ビール社を設立し、サミュエル・アダムズ・ボストン・ラガーを発売した。

 当時、地ビール醸造業者(製造量が年間200万バレル=3億1800万リットル未満の業者)は全米で10社足らず。ビール売り場はミラー・ビールやアンハイザー・ブッシュのブランドに占領されていた。それが09年には、ビール醸造協会によると全米で1500社に達し、総販売量の約4・3%を占めるまでになった。

 サミュエル・アダムズはクラフトビール(地ビール)の元祖ではないが、最も成功している(クックに言わせれば「アップルも最初にパソコンを作った会社ではない」)。09年の売り上げは4億1500万ドルと、アメリカ最大の地ビールメーカーになった。

 「ビールを造りたいと思っていたすべての起業家のために革命を起こした」と、ブラッドリー大学(イリノイ州)で起業活動を教えるジェリー・ヒルズ教授は言う。

原点は高祖父のレシピ

 自宅の台所でビールを造り始めた頃、クックはまだボストン・コンサルティング・グループに勤務していた。ハーバード大学で3つの学位(文学士、経営学修士、法学博士)を取得した彼には、ビール造りの血が流れている。先祖から代々ビール醸造を営んでおり、クックは高祖父のレシピを使った。

 間もなく25万ドルをかき集めて会社を設立した。ビールの名前の由来はマサチューセッツ州ボストンで活躍した建国の父の1人。生産はペンシルベニア州ピッツバーグの大手醸造所に委託し、大半の小規模醸造業者より品質管理をしやすくした。「『高品質のアメリカ産ビール』はあり得ないと思われていた」と、クックは語る。「醸造業の家に生まれた私は、そんなことはないと知っていた」

 最初はラベルもない瓶を、冷却パックと一緒にかばんに入れて売り歩いた。クックはまくし立てるようにバーテンダーを口説いた。「この新しいビールを飲んでみてくれ。少しずつ手作りしているんだ。きっと気に入るよ」

 大手醸造業者に真っ向から勝負し、テレビやラジオの宣伝、街頭の看板に大金をつぎ込んだ。ラベルに賞味期限を読みやすく明記して、ほかのビールは古くて気が抜けているかどうか消費者に分かりにくいと強調した。

 「セクシーな双子や動物がしゃべるアニメで宣伝する代わりに、彼はビールの品質について語った」と、95年にドッグフィッシュヘッド・クラフトブルワリーを設立したサム・カラジョーネは言う。

 ただし、地ビール醸造業者の仲間からも常に歓迎されたわけではない。当初は自前の醸造所を持たなかったことへの反発もあった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中