最新記事

軍事

「同性愛者OK」で米軍は進化する

「ゲイであることを公言したら除隊」という長年のルールについにメスが入る

2010年2月4日(木)16時24分

最高の人材を 「問わず、言わず」の方針撤回によって性的指向に関係なく優秀な人材を採用できる(写真はアフガニスタンの駐留米軍) Zohra Bensemra-Reuters

 米軍では、同性愛について「問わず、言わず」の伝統がある。軍当局が兵士の性的指向を問い合わせるのを禁じる一方、自ら同性愛者だと公言する者は軍に所属できないという方針だ。だが2月2日、オバマ政権はこの規定を見直すことを発表した。

 この決断に拍手を贈りたい。同性愛者への差別の根源を断つからだけではない。最高の人材を集めやすくなるというメリットも大きい。

 人種や宗教、性的指向のような業務に関係ない理由に基づいて人材を限定すれば、本来なら組織に貢献してくれるはずの優秀な人々を排除することになる。メジャーリーグは人種差別を廃して一段と盛り上がったし、アイビーリーグの大学はユダヤ人をはじめとするマイノリティーに門戸を開いて更なる躍進を遂げた。

「軍事活動に悪影響」は根拠なし

 私が以下の記事で昨年指摘したように、米軍の同性愛者問題にも同じことが言える。


 競争原理の働くあらゆる場面において、最も優秀でやる気のある人材を集め、採用することが重要だ。軍の業務に支障が出る肉体的ハンディキャップなどの要因がないかぎり、選べる母集団を限定すると不利になる。

 同性愛を公言したアメリカ人を兵役に就かせないということは、軍が活用できる人材の数に人工的な制限を加えることだ。もちろん、軍人や海兵隊員に向かない同性愛者もいるが、それは異性愛者にも当てはまる。それ以外の多くは見事に任務を果たすに違いない。(イラクに派遣されながら、同性愛者であることを公表して除隊させられた)ダン・チョイ中佐をはじめ、すでに多くの先例もある。

 国際政治の厳しさを知っている現実主義者にとっては、カミングアウトした同性愛者の従軍に反対できる唯一の理由は、実際の軍事活動に明らかな影響があるという主張だ。この議論の問題点は、それを裏付ける十分な証拠がないだけでなく、それを覆す証拠がかなりあるということだ。


「問わず、言わず」の方針を撤回することで一時的なトラブルが起きる可能性がないとは言わない。だが米軍はこれまでも、そうした変化をうまく受け入れてきた。

 先週、私が米海軍空母艦を訪問した際にある軍高官が話してくれたように、米軍はアメリカ社会を正確に映し出す、作りものでない組織であるべきで、「問わず、言わず」の方針撤回はそのための前向きな一歩だ。偏狭な心をもつ人々は反対するだろうが、米軍をより強力な組織にする一歩にもなるはずだ。


Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog, 22/12/2009.©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン

ワールド

焦点:中国、社会保険料の回避が違法に 雇用と中小企
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子、ホッキョクグマが取った「まさかの行動」にSNS大爆笑
  • 3
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラドール2匹の深い絆
  • 4
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 8
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    海上ヴィラで撮影中、スマホが夜の海に落下...女性が…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 9
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中