最新記事

アメリカ社会

米反政府航空機テロは氷山の一角

税制に不満で小型機でビルに突っ込んだ男は、「大きな政府」を憎む右翼団体と接触していた

2010年2月24日(水)17時06分
デービッド・グラハム

 テキサス州オースティンで2月18日、税制に不満を持っていたとみられる男が、内国歳入庁など連邦政府機関が入った建物に小型機で突入する事件が起きた。この事件をきっかけに、連邦政府に不満を抱く者による暴力行為をめぐって激論が戦わされるかもしれない。

 税制に対する抗議運動は以前から白人至上主義組織や民兵組織など右翼団体との関係が深かった。今回の事件を起こしたジョゼフ・スタックもそうした団体と接触していた。

 複数の調査によると、極右勢力による暴力行為は明らかに増加傾向にある。南部貧困法律センターのマーク・ポトクは「今回の事件の背景には過去1年〜1年半の間に民兵が激増し、『愛国者』による反政府運動が拡大している社会的潮流がある」と言う。

「こうした暴力行為が増えたきっかけは過去10年で非白人の移民が増えたことへの反発だった。その人口構成の変化の象徴がオバマ大統領だ」とポトク。「さらに経済の問題もある。大部分の中流・労働者階級が景気回復を実感できないなか、銀行家が莫大なボーナスを手にすることへの大きな怒りが渦巻いている」

 ポトクによれば90年代にも、「大きな政府」に反発する民兵たちによる暴力事件が相次いだ。ガス欠になって沈静化していたこの動きに経済危機が新たなエネルギーを吹き込んだのだ。

国内テロが増加中

 ユダヤ系団体である名誉棄損防止連盟のマーク・ピトカベージは、オバマが大統領になったことで極右勢力の活動が活発になったと語る。メンバーの数だけを見れば、白人至上主義団体より反政府団体のほうが増えている。

 ピトカベージによれば、09年は国内テロの増加が顕著で、33件だった(08年には13件、07年には21件、06年には14件)。だが彼はオバマ政権下とブッシュ前政権下での事件発生数の差を重視し過ぎるべきではないと指摘。「暴力事件はブッシュのときもなくならなかった」
 
 偏見や差別などに基づく憎悪犯罪の数は実際より少なく数えられる傾向があるともピトカベージは言う。「憎悪犯罪は事件が起きた地域でしか報道されないことが多いからだ」

[2010年3月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、AUKUSの意義強調へ トランプ米大統領と

ワールド

イラン、イスラエル北部にミサイル攻撃 「新たな手法

ビジネス

中国粗鋼生産、5月は前年比-6.9% 政府が減産推

ワールド

中国の太陽光企業トップ、過剰生産能力解消呼びかけ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中