最新記事

米政治

チェイニーが次期大統領選に出馬すべき理由

チェイニーとオバマという正反対の考えを持つ2人が対峙すれば国民の意思は明確になるはずだ

2009年12月2日(水)16時23分
ジョン・ミーチャム(米国版編集長)

保守本流 チェイニーが出馬すればアメリカの政治が変わる?(08年10月) Larry Downing-Reuters

 2012年の米大統領選で共和党の大統領候補になるのは誰か。まだ正式な出馬表明をしている人物はいないが、ここへきて意外な人物の名前があがっている。ディック・チェイニー前副大統領だ。

 今のところ世論調査会社のギャラップは、チェイニーの名前を調査の選択肢に入れていない。チェイニーの長女のエリザベスが、11月15日のFOXニュースで父親の出馬をほのめかしたときも、気の利いたジョークと軽く流された。たとえ話題に上っても、真面目に取り合おうとする向きはいない。

 だが私は、チェイニーが候補になる可能性をみんなもっと真剣に考えるべきだと考える。それは共和党にとっても、アメリカにとってもいいことだからだ(リベラル派の読者は飲んでいたコーヒーを吐き出したかもしれないが)。

 なぜか。それはチェイニーが信念の男であり、有権者の評価に耐える経歴の持ち主であり、結果がどうあれ、国民が何を望んでいるかをはっきりさせられるからだ。さまざまな議論を終わらせる一番いい方法は、争点について十分かつ率直な意見を戦わして、投票をすること。チェイニーとバラク・オバマ大統領の対決は、相反する考え方について「国民投票」を行うチャンスになる。

 93年にビル・クリントンが大統領に就任して以来、アメリカの統治には大きな問題が生じてきた。選挙に勝った大統領には自分の考える方向に国を導く権限があるという事実を、野党(93〜01年は共和党、01〜09年は民主党、そして現政権では再び共和党)が徹底的に拒否してきたことだ。

 オバマとの対決でチェイニーが勝てば、米国民はオバマの堂々たる多国間主義より積極的な単独行動のほうがいいと考えていることになる。オバマが勝てばその逆だ。

ブッシュ時代に審判を下すチャンス

 次期大統領選まであと3年だというのに、共和党にはこれといった有力候補がいない。ギャラップの世論調査では、マイク・ハッカビー(アーカンソー州知事)、ミット・ロムニー(前マサチューセッツ州知事)、サラ・ペイリン(前アラスカ州知事)、ニュート・ギングリッチ(元下院議長)、ティム・ポーレンティー(ミネソタ州知事)、ヘーリー・バーバー(ミシシッピ州知事)らの名前が挙がっている。同社が共和党支持者を対象に誰に投票するかを尋ねたところ、最も票が集まったのがハッカビー、その次がロムニーとペイリンだった。

 チェイニーはこれら「候補者」全員の長所を兼ね備えているうえ、有権者の受けも悪くなさそうだ。娘のエリザベスの「出馬発言」後、彼女の元には「チェイニーを応援するにはどうすればいいか」といった趣旨のメールが殺到したという。

 党のイデオロギーに対する純粋性が求められるこの時代に、チェイニーは最も純粋な保守派の1人だ。国家安全保障における保守的な姿勢を疑う者はいないし、下院議員と副大統領としての履歴を見ても保守派として非の打ちどころがない。

 これまで4つの政権に仕えてきたチェイニーが、莫大な財政赤字を生み出した前政権の副司令官だったのは事実だ。だがテロリズムを執念深く追及し、アメリカのパワーを積極的に行使する人物というイメージは、保守派の戦士として党内の地位を固めるのに大いに役立つだろう。

 チェイニーが共和党大統領候補になれば、08年の大統領選ではできなかったチャンスも生まれる。ジョージ・W・ブッシュ前大統領の時代に歴史の審判を下すチャンスだ。確かにチェイニーはブッシュではない。だがブッシュの副官を務めた人間として、ブッシュの世界観の強硬な部分を肯定するだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中