最新記事

アメリカ政治

「左」寄り共和党がオバマを苦しめる

米知事選などでの共和党勝利は、中道路線の右派が台頭するヨーロッパ諸国と同じ流れだ

2009年11月9日(月)18時50分
ファリード・ザカリア(国際版編集長)

象の復活? 共和党のシンボル「象」を模した選挙看板でアピール Jim Young-Reuters

 バージニア州とニュージャージー州の知事選など11月3日にアメリカ各地で行われた選挙の結果を端的に言うと、共和党の大健闘だった。もちろん、各選挙区の特色はそれぞれ違うから十把一絡げにすることはできないし、投票率も低かった。しかし重要なのは、ここ数年共和党に寄り付かなかった無党派層が共和党に多くの票を投じたことだ。さらに、この選挙結果は欧米世界で起きている驚くべき傾向と合致している──右派の台頭だ。

 想像してみてほしい。もし5年前に、これから深刻な経済危機が起こり、無責任な金融界に非難が集まり、政府は企業と家庭を救うだろうと言われていたら、きっと右派は支持を失い、左派が勢力を伸ばすと予想しただろう。だが、現実は違っている。

 右傾化しているのはアメリカだけではない。9月、ドイツでは保守派の連立政党が政権に就いた。フランスでは、ニコラ・サルコジ大統領率いる保守党、国民運動連合(UMP)が大きな支持を得ている。イギリスでは、保守党が17年ぶりに政権に返り咲こうとしている。伝統的に社会民主主義の政党が好まれるデンマークとスウェーデンでも、右派が政権に就いている。ヨーロッパ大陸の主要国で左派政権はただ1つ、スペインだけだ。

クリントンも中道に舵を切った

 なぜか。理由の1つは、経済危機にあっても、社会主義への転換が解決につながると本気で信じる人がほどんどいないからだ。

 一方、人気を得ている保守派そのものにも注目すべきだ。イギリス保守党のデービッド・キャメロン党首は自身を「進歩的な保守」と形容。フランスのサルコジは企業重役の賞与額制限など金融界の取締りを熱心に訴える。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は同国の社会的市場経済システムを死守。ヨーロッパの「右派」はまさに中道なのだ。

 これまで常にヨーロッパの右派より一歩右寄りだった米共和党でさえ、今回の選挙では中道に落ち着いた。共和党は何か目新しい経済政策を打ち出したわけでもなく、オバマのバラマキ政策と富裕層の増税をこき下ろして勝利を手にした。社会問題に関しては、従来の保守主義をあえて強調しなかった。

 冷戦後の政治地図を最も巧みに描いたのは、90年代初めに登場した2人の政治家だ。ビル・クリントン元米大統領とトニー・ブレア前英首相は、共産主義の崩壊で新しい現実が生まれたことを理解していた。左派か右派かといった極端に分断された政治志向は、やや玉虫色な中道路線に取って代わられた。人々は市場主義経済を支持しつつも社会保障の充実も求めるという考えに収束していった。

 有権者は候補者のイデオロギーではなく能力を重視した。クリントンは左派の政治家よりもロバート・ルービン元財務長官など頭の切れる実務者を登用することで、民主党の財政運営に説得力をもたせた。

 バラク・オバマ大統領の金融危機対策は、このような賢明な中道路線とみることができる。彼は左派からの金融機関を国有化せよという声を聞かず、学者からの景気刺激策が足りないという批判を無視。企業の責任を追及することもほとんどない。これらすべてに対して、オバマ率いる民主党の左派は不満を抱いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マクロスコープ:イラン情勢、「6月停戦説」の背景を

ビジネス

中国、国有銀行に3000億元注入へ テック分野の資

ワールド

米政府、国民を中東から帰国させるチャーター便を運航

ワールド

中国、26年経済成長率目標「4.5─5%」に引き下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中