最新記事

アメリカ社会

結婚を阻むワシントンのアパルトヘイト

首都ワシントンの婚姻率が全米平均を大きく下回る背景には人種と階級の根深い断絶がある

2009年10月21日(水)16時25分
ケイティ・コノリー(ワシントン支局)

春が来ない街 リベラルな白人エリートにも貧困に苦しむマイノリティーにも結婚できない事情がある Kevin Lamarque-Reuters

 セックスとジェンダーの問題に詳しいブロガーのアマンダ・ヘスが10月19日、ワシントン・シティー・ペーパー紙のサイトで興味深い話題を取り上げた。テーマは、アメリカ人の結婚に関するピュー・リサーチセンターの最新研究だ。


 首都ワシントンの婚姻率はアメリカ国内で最低を記録している。全米平均では女性の婚姻率は48%、男性は52%だが、ワシントンでは女性の23%、男性の28%しか結婚していない。ほかの州と比べて際立って低いため、各州の婚姻率の高低を四色で分類した地図でも、ワシントンだけ色が塗られていないほどだ。ワシントンに次いで婚姻率が低いのは女性がロード・アイランド州、男性がアラスカ州だが、そこでもそれぞれ女性の43%、男性の47%が結婚している。


 ヘスは主な理由として2つの要素を挙げている。まず、ワシントン市民の初婚年齢が高い点。さらに、同性婚が認められていない影響で、8.2%いる性的マイノリティーの存在が統計を歪めているという。

外からは見えないマイノリティー

 どちらももっともな説明だが、データの分析が不十分だ。そもそも、ワシントンは州ではなく市に近いので、他州の人口統計と単純に比較するのは難しい。それでも、今回の調査結果はワシントンにおける人種と階級の深層を浮き彫りにするものだ。

 ワシントンの住人なら誰でも、この町の恥ずべき秘密に気がついている。ここでは、不文律のアパルトヘイト(人種隔離政策)が行われているのだ。

 高収入の大卒の白人が暮らすのは北西地区。彼らが求めるサービスを提供するのは移民やアフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系など底辺層の市民で、北西地区以外の3つの地域に暮らしている。高級ホテルやレストラン、観光スポットにしか用がない観光客はまず訪れることのないエリアだ。

 北西地区の住民は概して、初婚年齢が平均より高い。ピュー・リサーチセンターの研究では、大卒者の割合が高い地域ほど晩婚の傾向があるという。専門職の女性も初婚年齢が高めだ。

 ワシントンでは、ホワイトカラーの大半は政府や行政関連の仕事に就いている。そうした職種には左寄りの進歩的な思想の持ち主が多く、彼らは晩婚を選びがちだ。

 実際、ピュー・リサーチセンターの調査では、民主党の得票数が多い州ほど晩婚であるという相関関係も明らかになっている。その点、ワシントンは民主党が圧倒的に強い。昨年の大統領選でのバラク・オバマの得票率はなんと92%。2004年にはジョン・ケリーが89%、2000年にはアル・ゴアが85%を獲得している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中