最新記事

メディア

マイケル報道の耐えがたい罪

大スターの死が浮き彫りにしたマスコミのばかげた空騒ぎと人間の醜い欲

2009年8月7日(金)15時00分
レーナ・ケリー(本紙記者)

安らかに マイケルの死を悼んでささげられた花(7月1日、ハリウッド) Reuters

 今の社会のムードでは少し言いづらいのだが、マイケル・ジャクソンの死の衝撃は時間がたてば薄らぐ。そのうちメディアもほとんど話題にしなくなるだろう。

 けれど、6月25日にマイケルが死んで以降のメディアの騒ぎが私に教えてくれたことがある。深い悲しみに浸っているときも物事を冷めた目で見る姿勢が必要なのだと、マイケルの死亡報道をきっかけに私は思うようになった。

 その点は自分でも意外だった。私はもともと、物事をことさら皮肉に冷めた目で見る人たちが大嫌いだった。だが、このような世界で生きる上でそういう姿勢は必要悪だと今では思っている。セレブが死んだとき冷めた態度を貫くのは勇気が要るが、メディアの大げさで執拗で退屈な報道から身を守るためにはそうするしかない。

 セレブが死んだときのお決まりのパターンだが、今回もメディアはマイケルの突然の死で一色になった。超大型ハリケーン「カトリーナ」の上陸、国民的大ヒットオーディション番組『アメリカン・アイドル』の最終回、イラン大統領選に対する市民の抗議デモ、アメリカ初の黒人大統領の誕生も、メディアは同じように伝えてきた。

 今やありとあらゆるニュースが国際的大事件のように、延々と報道される。私の周りの人間はほぼ全員、マイケルの死に深い悲しみを感じている半面、マイケル報道の洪水にうんざりしている。

 おまけに、あまりに多くの偽情報が飛び交っている。どの報道が正しくて、どの報道が嘘なのか判断するのも難しい。マイケルが死んだ日、アメリカの簡易ブログ・サービス「トゥイッター」の中では、俳優のジェフ・ゴールドブラム、ジョージ・クルーニー、ハリソン・フォードまで死んだことにされていた。

 では、マイケルの死後、冷めた目で報道に接していたらどういうふうな見方ができたのか。具体例を挙げよう。

■マイケルの追悼イベントで黒人活動家のアル・シャープトン牧師は言った。「マイケルのおかげで世界中の若い男女が私たちのまねをするようになった。マイケルが登場するまで、私たちは社会の片隅に追いやられていた」。マイケルを「偉大な黒人」としてたたえた感動的なスピーチ?

 だが冷めた視点で見ると、マイケルが整形手術を受けてまで自分の人種的特徴を消そうとしたことをどうお考えなのかと言いたくなる。

 もう1人の大物黒人指導者ジェシー・ジャクソン師は、動画投稿サイトのYouTubeにメッセージを投稿し、後追い自殺をしないようマイケルのファンに呼び掛けた。「マイケルの名の下に共にきょうだいとして生きよう。命を絶って離れ離れになるのは、愚か者のすることだ」。故人の家族でない限り、こんなことは言う資格はないのではないか。

 そもそもなぜ、2人の大物黒人牧師が出しゃばってくるのか。単なる目立ちたがり屋と言われても文句を言えない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ワールド

米、輸入ドローン・ポリシリコン巡る安保調査開始=商

ワールド

事故調査まだ終わらずとエアインディアCEO、報告書

ビジネス

スタバ、北米で出社義務を週4日に拡大へ=CEO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中