最新記事

米政治

超党派を拒む「抵抗勢力」ナンシー・ペロシ

2009年4月24日(金)02時11分
ホリー・ベイリー(ワシントン支局)

野党時代の仕打ちに恨み

 だがペロシも、これまでにオバマと同じくらいの苦労をしてきた。サンフランシスコを地盤とする大金持ちとはいえ、いまだ男性上位の議会でトップにのぼり詰めるために闘ってきた女性である。当然、オバマの言いなりにはならない。

 ペロシには06年の中間選挙で民主党を勝利に導いたという自負がある。野党側への配慮など二の次だ。ある記者会見では「私たちが法案を書いた」、なぜなら「選挙に勝ったのは私たちだから」と語り、それからおもむろに「大統領は超党派政治の実現に尽力している」とつけ加えた(今回は本誌による取材に応じなかった)。

 一定の摩擦はあるにせよ、オバマとペロシは互いを尊敬し合っている。2月24日の大統領施政方針演説では、ペロシは何度も立ち上がって称賛を送った。政治的に互いを必要としているのも事実だ。

 それでも、2人は互いの神経を逆なですることがある。ホワイトハウスの一部では、早くもオバマの「ペロシ問題」がささやかれている。他の情報源と同様、匿名を条件に取材に応じた政権幹部の一人は、いろいろな意味で「民主党とのつき合いは共和党とのつき合い以上にむずかしい」と言う。

 下院民主党は、野党時代に共和党から受けた仕打ちを今でも根にもっている。それはオバマも承知している。共和党は景気対策法案に一致団結して反対し、超党派志向のオバマに恥をかかせた。そんなペロシ側の言い分も、決して的外れではない。

 だが、そうした党派的争いに終止符を打つことこそ、オバマの重要な選挙公約の一つだった。共和党を鼻であしらうことによって、ペロシは公の場で大統領の意思を無視したことになる。

 一方で、ペロシの強気の姿勢がオバマを助けている面もある。彼女が頑迷なリベラル派を演じているかぎり、大統領は「ものわかりのいい中道派」に徹することができるからだ。

 ペロシは前政権による富裕層減税の即時廃止を求めたが、オバマは来年の期限切れによる自然消滅を待つことにした。イラク駐留米軍の速やかな全面撤退を主張するペロシに対し、オバマは軍部と協議のうえ、当面は非戦闘任務に従事する3万5000〜5万人の部隊を残す決断を下した。

 ペロシは「共和党の目のかたき」という役割を積極的に受け入れている。共和党としても、70%前後の支持率を維持するオバマは攻めにくい。だが支持率35%前後(ラスムッセン社調べ)のペロシなら攻めやすいだろう。ある民主党幹部の側近によれば、ペロシは「大統領のためなら、どんなパンチでも喜んで受けるつもり」だ。

 ただし、これには交換条件がある。自分は痛い思いをして悪役を引き受ける、だから大統領も、下院に口を出したくなったら必ず自分を通せ。そんな条件だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが

ビジネス

米FRBタカ派幹部、利下げに異議 FRB内の慎重論

ワールド

カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブルージェ

ビジネス

NY外為市場=ドル/円小動き、日米の金融政策にらみ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中