最新記事

米政治

超党派を拒む「抵抗勢力」ナンシー・ペロシ

身内のはずなのに、議会を牛耳る民主党のペロシ下院議長が共和党よりも手ごわいオバマ大統領の敵に

2009年4月24日(金)02時11分
ホリー・ベイリー(ワシントン支局)

共和党に歩み寄ろうとしないペロシ下院議長はオバマの敵か味方か
Joshua Roberts-Reuters

 共和党の下院議員チャーリー・デントは、バラク・オバマ大統領の景気対策法案に賛成票を投じたかった。オバマも、デントの一票を本気で欲しがっていた。しかし下院議長のナンシー・ペロシ(民主党)はそうでもなかったらしい。

 デントの選挙区はペンシルベニア州アレンタウン。民主党支持者が多く、大統領選ではオバマを支持した地区だ。そんな町で、デントは共和党のお偉方よりも自分の良心と有権者の声に耳を傾ける姿勢を貫き、議席を守ってきた。そのせいで、頭の固い共和党幹部を怒らせたことが何度もある。

 だから、オバマが1兆ドル近くの景気刺激策に賛成してくれそうな共和党議員を探したとき、デントはその候補者リストの筆頭にあがった。オバマは就任早々、デント夫妻とその子供たちをホワイトハウスに招待し、一緒にスーパーボウルを観戦した(ほかにも数人の共和党議員が招かれていた)。

 腹ごしらえにはハンバーガーとホットドッグを用意し、オバマ夫妻はデントに精いっぱいの接待攻勢をかけた。ミシェル・オバマはデントの夫人と仲良くおしゃべり。オバマ自身も、みんなにクッキーを配って回った。オバマの娘たちは、デントの子供たちと任天堂のゲーム機Wiiで遊んだ。

 デントのような一介の下院議員にとって、合衆国大統領にちやほやされるのは舞い上がるような経験だ。デントは本誌に語っている。「わかるだろう。あれは一生忘れられない出来事だ」

 それでも、最終的にデントが賛成票を投じることはなかった。1月28日に行われた採決で、下院共和党は全員そろって反対票を投じた。デント自身、この法案ではカネがかかわりすぎるし、教育や医療など民主党お得意の分野を詰め込みすぎだと考えていた。それでもまだ、彼にはオバマの説得に応じる余地があった ----そこにナンシー・ペロシがいなければ。

 オバマがデントら共和党議員にラブコールを送っている間、ぺロシは正反対の行動を取っていた。デントに言わせると、彼が民主党幹部と話そうとしても拒否された。オバマは議会に超党派の兄弟愛を生み出す夢を追っていたが、あいにくペロシは違った。議会は私のもの、下院に法案が来た以上、仕切るのは私。そう考えていた。

 ペロシはこの法案を緊急の立法プロセスに乗せ、議論を手短に切り上げ、共和党側の声を聞かなかった。当然、共和党は腹を立てる。「大統領は本心から超党派による結果を出したがっていた」とデントは言う。「だが法案がペロシの手に渡ると、ホワイトハウスはコントロールを失った」

 もちろん、ホワイトハウスと議会の関係には摩擦がつきものだ。一つの党が両方を支配しているときでもそれは変わらない。厳しい大統領選を乗り切ってきたオバマは、自分ならこの摩擦を解消できると信じているかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中