最新記事

AI

画像生成AIの「人種的偏り」は誰のせい? 白人男性ばかりが目立つ理由

Does AI Dream of a White World?

2023年3月1日(水)16時30分
ヘザー・タル・マーフィー

AIツールに偏りがあることは何年も前から指摘されてきた。アマゾンの履歴書評価ツールは男性ばかり選ぶとか、AIが裁判官に提示する再犯可能性の高い人物の予測が人種的に偏っているとか、さまざまな事例がある。

多くの専門家と話した結果、おぼろげながら問題の本質が見えてきた。これはデータと人間の思い込みの問題と言えそうだ。AIツールはカップルや人間の手を生成する作業において、私たちの多くが想定するようには機能しない。

その原因はAIの「トレーニングセット」に含まれるデータと関連がある。「AIツールの開発者が初期段階で特定・分離できなかった偏りが含まれていた場合、その製品は偏った答えを出す可能性が高い」と、AIにみられる人種や性別の偏りに関する論文を発表したフロリダ国際大学のマンジュル・グプタ教授(情報システム)は指摘する。

パターン学習の弊害

もう1つの問題は、私も多くの人々と同様、AIツールが何をするのかを誤解していたことだ。開発者は世界屈指の天才なのだから、私たちの住む世界(現実のアメリカ社会)に近い結果を生み出す方法を考案したと思っていた。

AIツールは通常、1つのプロンプトに対し4通りの結果(画像の候補)を返す。だが、非営利の研究機関モントリオールAI倫理研究所の主任研究員アビシェク・グプタによれば、たとえ4通りのプロンプトを入力しても、AIツールはデータセット中に最も多く登場するグループを抽出し、小さな差異しかない結果を提示する傾向がある。

この「グループ」は通常、白人のことだ。「誰かが明示的にそうしているわけではない。データセットの中に突出して多く存在するからだ」

AIツールの人物画像に白人男性ばかりが目立つ理由もそれに近いと、機械学習の企業ハギングフェイスの研究員でAIの倫理問題を調べているサーシャ・ルチオーニは指摘する。

彼女はステーブル・ディフュージョンとダリ2が150の異なる職業をどう画像化するかを示す2つのツールを開発。例えば女性、黒人、アジア系などの単語を明示的に加えない限り、ツールはアメリカ社会の実態とは程遠い結果を返すことが多い。

この問題を修正するのが難しい理由は、AIがしばしば6本指の手を生成する理由と関連があると、ルチオーニは言う。人口動態的に正確な、あるいは解剖学的に正しい結果を提供するようにプログラムを書くことはできないからだ。「プログラムは明確なルールを与えられているわけではなく、パターンを学習しているだけだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中