最新記事

中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃

TikTokとドローンのDJIは「生まれながらの世界基準」企業

BORN TO BE GLOBAL

2018年12月20日(木)11時55分
高口康太(ジャーナリスト)

TikTokを運営するバイトダンスと、ドローン企業のDJI(写真)には共通点が VW PICS-UIG/GETTY IMAGES

<アリババやテンセントなど、中国の大手IT企業が国外展開を拡大させている。中国ネット市場の飽和がその背景にあるが、動画アプリTikTokを運営するバイトダンスと、ドローンメーカーのDJIは「旧世代」と異なる戦略を取る>



※12月25日号(12月18日発売)は「中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃」特集。あなたの知らない急成長動画SNS「TikTok(ティックトック)」の仕組み・経済圏・危険性。なぜ中国から世界に広がったのか。なぜ10代・20代はハマるのか。中国、日本、タイ、アメリカでの取材から、その「衝撃」を解き明かす――。
(この記事は本誌「TikTokの衝撃」特集より)

TikTokは「中国発グローバルアプリ」と評されている。これは一体、何を意味するのか。ジャーナリストの高口康太が、中国のデジタルエコノミーに詳しい東京大学社会科学研究所の伊藤亜聖准教授に聞いた。

◇ ◇ ◇

――TikTokが日本、そして世界市場を席巻している。

運営元のバイトダンスに限らず、中国の大手IT企業はこぞって国外展開を加速している。背景にあるのは中国インターネット市場の飽和だ。

中国のネットユーザーは2006年の1.3億人から2016年には7.3億人へと爆発的な伸びを見せてきた。中国では経済成長率よりもネットユーザー数の伸び率が高い状態を「インターネット人口ボーナス」と呼ぶ。これがプラスのとき、中国ネット市場は中国経済全体を上回る成長率を得ていることになる。

ネットユーザーの伸び率は2000年代後半の20~50%超から2014年には5%に落ち込み、経済成長率以下となった(下図参照)。すなわちインターネット人口ボーナスの消失だ。これにより新たなユーザー確保が難しくなり、各社は既存ユーザーの囲い込みと深掘りを目指した。タクシー配車から公共料金の支払いまで、全てを自社と関連企業でカバーする経済圏をつくる構想だ。その要がスーパーアプリ。アリババ・グループの支付宝(アリペイ)、テンセント(騰訊)の微信(ウィーチャット)はあらゆるサービスにアクセスできる経済圏の入り口となった。

magSR181225global-chart1.png

本誌29ページより

今では囲い込みのステージも終わっている。新たな成長スポットが必要とされるなか、中国のIT大手による対外投資が加速している。

――日本など先進国だけでなく、東南アジアでも積極的に展開している。

2016年から中国IT企業の対東南アジア投資が急増している(下図参照)。中国の対東南アジア投資に占めるIT大手の比率は2013年時点ではゼロだったが、2017年には14%に達した。データは不完全なものだが、大きな構造転換が生じていることは確かだ。

magSR181225global-chart2.png

本誌29ページより

中国IT企業はまず東南アジア市場を開拓、続いてインドへ西進していくだろう。その先のアフリカはインフラ面で時期尚早に思えるが、アリババ会長のジャック・マー(馬雲)は度々訪問し、将来への布石を打っている。

――習近平(シー・チンピン)政権の一帯一路構想に沿っているように思えるが。

一帯一路は当初、道路や港などのインフラが重点と理解されてきた。今も重点は変わらない。しかし2017年5月に開催された「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムでは「デジタルシルクロード」構想が明かされた。光ケーブルの敷設や人工衛星情報の共有、さらにはEC(電子商取引)のネットワーク拡大などを盛り込んだ内容だ。

では、IT企業の対外進出がこの構想に呼応したものかと言われると疑問が残る。中国からどの国にどのような投資が向かっているかを分析したところ、一帯一路の沿線国はやはりインフラ中心で、民間企業による投資は先進国に集中していることが分かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中