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中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃

TikTokとドローンのDJIは「生まれながらの世界基準」企業

BORN TO BE GLOBAL

2018年12月20日(木)11時55分
高口康太(ジャーナリスト)

中国政府のスローガンと、民間企業の行動という現実には、乖離があることを理解するべきだ。笛吹けど踊らずという側面が強い。IT企業の東南アジア投資増加は、政府の号令よりも、以下2つの要因から理解すべきだろう。

第1に、先進国ではGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)を筆頭に欧米企業が確固たる地盤を築いているが、東南アジアにはまだ入り込むチャンスがあること。

第2に、モバイルブロードバンドの普及だ。ASEANは6億4000万人もの人口を擁している。かつては通信速度が遅く、先進国同様のサービスが提供できる地域は限られていた。今では大きく状況が変わっている。昨夏ミャンマーの地方を視察したとき、縫製工場の従業員が休憩時間にスマホで動画を見ている姿に驚かされた。

ネットのインフラさえ整備されれば、人口の多い東南アジアのポテンシャルが発揮される。ネット市場の規模がネット人口の多さに規定されると考えると、極論としては人口分布に規定されることになるからだ。中国IT企業は人口が多く、モバイルブロードバンドが整備された途上国を狙っていく。

――アリババやテンセントの動きとバイトダンスの戦略は一致している、と。

背景は共通しているが、バイトダンスは中国企業の成功の新たなパターンを示している。TikTokの成功とは、つまり中国新興企業がグローバル市場の新興セグメントで高いシェアを獲得したことを意味する。これはドローンのDJIとよく似た構図だ。DJIはドローン市場という新たなマーケットが立ち上がった初期に、圧倒的なコストパフォーマンスの製品を投入して頭角を現した。今では消費者向けドローンで世界シェア70%の巨人だ。

TikTokもショートムービーアプリの黎明期にチャンスをつかんだ。新たな産業領域でいきなりトップを取った点で両社は共通している。

中国にはほかにも、華為(ファーウェイ)など世界的企業があるが、他国の企業に追い付いたキャッチアップ型の成長だ。またアリババやテンセントは世界的企業だが、ユーザーの大半は中国人。DJIやバイトダンスは早い段階で国外展開を進めているのも特徴的で、今までにない成長パターンだ。

中国のモバイルインターネットではユーザーエクスペリエンスの向上をめぐり、先駆的なITサービスも生まれている。国内市場での競争の成果を前提に、創業当初から世界を目指す「ボーングローバル」企業が登場し始めた。国内で内弁慶だった中国IT企業の姿勢は大きく変わりつつある。

ただ、中国企業は全般に国外展開のノウハウが足りない。さまざまな「学費」を払いながら2020年代にはより洗練された進出パターンになるだろう。

<2018年12月25日号掲載>

【関連記事】TikTokのブレイクは「芸能人がきっかけではない」バイトダンス井藤理人氏を直撃
【関連記事】TikTokは既に「女子高生アプリではない」、自撮りできない世代も使い始めた

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