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試乗リポート

自動運転でも手を離せないテスラの大いなる矛盾

2016年1月20日(水)16時00分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

 マスクがやりたいのは、自動運転車が走り回る未来世界をのぞかせ、あっと言わせることだ。めくるめくような新しいテクノロジーを使う最初の集団にいる──この興奮を私たちに味わわせたいと思っている。

 しかし「正しく」使う限り、オートパイロットで走る体験にさしたる興奮はない。ハンドルに手を置いている限り、自動走行感は乏しいからだ。

 コンクリート壁に突っ込まないかといつも用心しなければならないなら、快適どころではない。オートパイロットに任せているのにハンドルを持ち、目を道路に向けるのは、普通の運転よりも退屈だ。こんな自動車が魅力的なのか。

 価値はないと言うつもりはない。筆者は以前、テスラのオートパイロット機能の前のバージョンを搭載した車の試乗に招かれた。私たちはサンフランシスコ半島のインターステート280号線へ。車はクリスタル・スプリングス貯水池を見下ろす丘陵やつづら折りの道を軽やかに走り抜けた。

 しかし10万ドル以上をこの車に払うのなら、フェラーリと競争しても引けをとらないスーパーカーが欲しいなと思った。自分で勝手に動くのに「ドライブの楽しみ」をセールスポイントにした車に、なぜ大金をはたかなければならないのかと。

飲酒運転が増える危険が

 理論的にはオートパイロット車は便利なだけでなく、ドライバーを守ってくれる。不都合な点はあっても、不注意なドライバーが運転するオートパイロット機能なしの車より安全なのは確かだ。走行中にスマホをいじるドライバーが増えた現在、この機能はありがたい。

 しかしオートパイロット機能はドライバーの行動を変えかねない。渋滞の道路で携帯メールをチェックしたい衝動を抑えるのは一段と難しくなる。パーティー帰りの人が飲酒運転をする可能性も高まる。オートパイロットの乱用を防ぐ手段を早急に取らなければ、テスラ相手の訴訟が相次ぐのは必至だ。

 人間と機械が一緒に運転する車というアイデアを、グーグルが放棄したのも理解できる。グーグルは長年にわたってソフトウエアを試験し、改善してきたが、最終的に解決できない弱点があるのに気が付いた。ドライバー、つまり人間だ。だから彼らは、無人運転車の開発に方向転換することにした。

 しかし現実には、人間がオートパイロット機能などを体験しながらテクノロジーへの信頼を深めない限り、無人運転車は普及しないだろう。オートパイロット車がトラブルを引き起こすようでは、無人運転の合法化も難しくなる。

 テスラのオートパイロット車が失敗に終わったら? グーグルの未来カーも共倒れになる可能性が大だ。

© 2016, Slate

[2015年12月29日号掲載]

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