最新記事

試乗リポート

自動運転でも手を離せないテスラの大いなる矛盾

2016年1月20日(水)16時00分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

 テスラは既存のテクノロジーの可能性を限界まで押し広げながら、他の主要メーカーが目指していない「自動駐車」や「自動車線変更」の機能を追求している。人間のドライバーというセーフティーネットがあるからこそ、こうした機能を実地にテストできる(そして適法と見なされる)わけだ。

 とはいえ、人間が逆に障害になるとしたら? テスラがソフトウエアにオートパイロット機能を追加するや否や、YouTubeにはモデルSのドライバーがチャレンジする映像がアップされ始めた。「見てよ、ママ、手離し運転だ!」と。

 突然、道路の壁や対向車線へ進路を変え、運転手が直前で衝突を回避する映像もあった。あるビデオのタイトルは、「テスラのオートパイロットに殺されかけた!」。最も不安をかき立てたのは、後部座席に座ったままのオランダ人ドライバーが自分の姿を撮影したビデオだ。

 先の業績発表で、マスクはオートパイロット機能のエラー報告を「驚くようなことではない」とし、現在のソフトウエアは「ベータ版」であり、いずれもっと賢くなると説明した。一方、一部のドライバーが「常にハンドルに手を置く」というテスラの要求を無視している映像には不快感を示し、「これはよろしくない」と苦々しい表情で語ったものだ。

未来世界が垣間見える

 テスラのオートパイロット機能はハンドルから手を離せば警告を発し、運転者がシートベルトを外したり、座席を離れたりすると減速し停車するよう設計されている。例のオランダ人がどうやって後部座席に移ったかは不明だが、そうした無謀行為を防ぐための対応を急ぐと、マスクは語っている。

 たぶん、それは正しい対応なのだろう。例えばこの機能を特定の道路だけでしか使えないようにするのも1つの手だ。

 そうすれば大手自動車メーカーの不安が少しは払拭されるかもしれない。彼らはテスラのオートパイロット機能の派手な売り込みがユーザーの不安と反発をかき立て、真の無人運転車の実現の妨げになる事態を心配している。

 報道によると、15年10月に開かれた東京モーターショーの会場で、トヨタの豊田章男社長は「自動運転車がらみで大事故が起こったら、テクノロジーの進歩はすぐさま止まるだろう」と記者団に語っている。

 もっとも、オートパイロット機能には解決できない基本的な矛盾がある。テスラによると、この機能は安全性と利便性の向上を目的としている。しかし、それなら自動車線変更といった派手だがまだ不安定な機能を試さず、既に開発されている「車間距離を保ちながら定速走行する」機能を充実させればいいのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で

ワールド

中国、米国の台湾への武器売却を批判 「戦争の脅威加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中