最新記事
SDGsパートナー

宮大工の技で森を循環させる――世界最古の企業、金剛組が挑む「大きな柱」の危機

2025年10月20日(月)13時00分
ニューズウィーク日本版編集部SDGs室 ブランドストーリー

万博で始動した「実装の一歩」

実装に向けた第一歩として、髙松コンストラクショングループのエントリーにより、「大阪・関西万博」の伝統文化未来共創プロジェクトで「束ね柱」を展示する機会を得た。

全国47都道府県から提供された木材を用い、12cm角の柱16本を束ねて48cm角の大径柱とし、その柱を4本、四隅に配して舞台を組み上げるというものだ。

しかし、プロジェクトはまさに挑戦の連続だった。

全国から届く木材の乾燥状態をそろえるための時間の確保や、重機が入らない会場で約300kgの柱を人力で安全に立てるための仮設足場と滑車の設計、深夜の限られた時間での組み立てに備えた自社加工センターでの本番同様の仮組みと時間計測――ひとつずつ課題を洗い出し、段取りと手順を磨き込んでいった。

newsweekjp20251016095958.jpg

万博会場での設営はすべて人力作業。作業は深夜にまで及んだ

心が折れそうになった局面では、全国の子どもたちから届いたビデオレターが背中を押した。金剛組 取締役 本店長の阿部知己氏は「応援の声が技術者と宮大工を一つにした」と語る。現場を動かすのは、技術だけではなく、人の想いであることを改めて確認した瞬間だった。

万博での展示を経て、各地のイベント出展に関する問い合わせが増加しているという。

「束ね柱」は接着剤を使わないため何度でも再生可能であり、16本で束ねた柱を4等分に分解できる細工により、運搬・組立の容易性も高い。

柱頭をつなぐ貫材を短くすれば、狭い会場にも設置できるため、条件が整えば全国各地での展開が見込める。

この可搬性は、技術の普及と社会的対話の場を広げ、森林の循環利用と伝統文化の継承に対する理解を促すはずだ。

将来を見据えれば、カーボンニュートラルの観点から木造建築の価値は一段と高まる。「束ね柱」は、人工林の適切な伐採と活用を促し、資源の持続可能な循環を具体的に示す装置であると同時に、匠の技を次世代へつなぐ学びの場にもなる。

阿部氏は「我々の技術が、和と伝統を未来へつなぐ架け橋となる」と結ぶ。森林と社寺、地域と文化、技と人が互いに支え合う循環を可視化するこの取り組みは、持続可能な社会づくりに通じる実践として、今後も深化していく。

◇ ◇ ◇

アンケート

どの企業も試行錯誤しながら、SDGsの取り組みをより良いものに発展させようとしています。今回の記事で取り上げた事例について、感想などありましたら下記よりお寄せください。

アンケートはこちら

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ロビンフッド、インドネシアに参入 証券会社と仮想

ワールド

イタリア、25年成長率予想を0.5%に下方修正 2

ビジネス

アングル:アジアで来年、多数のIPO計画 AIバブ

ビジネス

10月経常収支は2兆8335億円の黒字=財務省
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中